最少もすこ)” の例文
最少もすこし具体的にいえばどうしたら『新小説』と『文芸倶楽部ぶんげいクラブ』の編輯者へんしゅうしゃがわれわれの原稿を買うだろうかとの問題ばかりであった。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『浮雲』以後の精神的及び物質的苦悶に富んだ二葉亭の半世の生活からは最少もすこし徹底した近代的悲痛が現れなければならないはずであったが
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
家主いえぬしの婆あさんなんぞは婆あさんでも最少もすこ艶々つやつやしているように思われるのである。瀬戸はこう云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
必ずこの語は不用なりとか、この語は最少もすこし短くしても事足りぬべきにとか、此語と彼語と位置を顛倒てんとうすればてにはの接続に無理を生ぜぬとか、何とかいふやうな事あるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
子供こどもくせにませたやうでをかしい、おまへつぽど剽輕ひやうきんものだね、とて美登利みどり正太しようたほうをつゝいて、其眞面目そのまじめがほはとわらひこけるに、おいらだつても最少もすこてば大人おとなになるのだ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小林さだ子としたならば最少もすこし小さくなければならんのです。神楽坂署にてあれなる死体につき色々に説明を聞きましたなれど、未だ今尚私は疑惑の波に漂うて居るのであります。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「ナニ、姉さん、左様さう気をいら立てずと、最少もすこし休んでらつしやる方がいですよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我劇の古色をきずつくる限りは出来ぬ相談なるが故に、我邦の楽にて推し通すは可也、然れども願くは、楽と動との関係を最少もすこるくして、演者の活溌なる動作を見ることを得たきものなり。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「おい、君、最少もすこしそっちへ寄ッた。この爺様じいさん半座はんざを分けるのだ。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『お前は何を考がえて居るのだ。もって生れた気象なら致方しかたもないが、乃父おれはお前のような気象は大嫌だいきらいだ、最少もすこ確固しっかりしろ。』と真面目まじめの顔で言いますから、僕は顔も上げ得ないで黙って居ました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「この胴裏じゃ表が泣く、最少もすこ気張きばればかった」というと「何故なぜ、昔から羽織の裏は甲斐機にきまってるじゃないか、」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
自分は衰弱した身心の健康を、力ある海洋の空気によつて恢復させ、最少もすこし軟かなあたゝかな感情を以て、自分と自分の周囲を顧ることが出来るやうになりたいと思つた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
流石さすが氣根きこん竭果つきはてけん茫然ばうぜんとしてたちつくすをりしも最少もすこまゐると御座ございませうとはなごゑしてくろかげうつりぬ、てんあたひとこそつれはづすまじといさたつすゝればはてなんとせん
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そうか、」と立ちながら足をたたいてくずれるように笑った。「かった、宜かった、最少もすこし遅れようもんなら復た怒られる処だった。さあ、来給え、」
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私は日本人が日本の国土に生ずる特有の植物に対して最少もすこし深厚なる愛情を持っていたなら
お前は余つぽど剽軽ひやうきんものだね、とて美登利は正太のほうをつついて、その真面目がほはと笑ひこけるに、おいらだつても最少もすこし経ては大人になるのだ、蒲田屋かばたやの旦那のやうに角袖外套かくそでぐわいとうか何か着てね
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二葉亭にもし山本伯の性格の一割でもあったら、アンナにヤキモキもだえたり焦々いらいらしたりして神経衰弱などにかからなかったろう。社会的にも最少もすこし成功したろう。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
最少もすこむこうの困るくらいくわしくこまかい事まできけばよかったという気がした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二葉亭は最少もすこし豊かであるべきはずであったが、哈爾賓到着後は万事が予想と反して思うようにならなかったのみならず、財政上にもまた頗る窮乏して自分自身はなお更
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
清岡は女給の君江が最少もすこし乗気にさえなってくれれば、明日といわず即座にカッフェーなり酒場なり開業させようと思いながら、そういう相談には君江ではいかにも頼みにならないところから
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)