明眸めいぼう)” の例文
春枝夫人はるえふじんいた心配しんぱいして『あまりに御身おんみかろんじたまふな。』と明眸めいぼうつゆびての諫言いさめごとわたくしじつ殘念ざんねんであつたが其儘そのまゝおもとゞまつた。
脂粉しふんの世界には初めて足を踏み入れたことでもあり、吉野の明眸めいぼうにちらと射られても顔が熱くなって、胸の鼓動も怪しげに鳴るのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人は禿頭にして肥満すること豚児の如く愚昧ぐまいの相を漂わし、その友人は黒髪明眸めいぼうの美少年なりき、と。黒髪明眸なる友人こそ即ち余である。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
眉の跡の青々とした明眸めいぼうの女主人あるじは、さすが昔の全盛を偲ばせて、年にも柄にも似合わぬ頭のよさがあったのです。
帰朝以来、はじめ予は彼女を見るのおのれの為に忍びず、後は彼女を見るの彼女の為に忍びずして、遂に荏苒じんぜん今日に及べり。明子の明眸めいぼう、猶六年以前の如くなる可きや否や。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじ大道だいどう、炎天のもとひらけつゝ、日盛ひざかりの町の大路おおじが望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交ゆきかふ人は点々と蝙蝠こうもりの如く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
無限に緊張した注意力と、冷徹やみをも透す明眸めいぼうとが要るのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
明眸めいぼうが露に濡れている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白いあぎとたんの如き唇——もっと深くさし覗くとりんとした明眸めいぼうが、海をへだてた江戸の空を、じっとみつめているのであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、国を憂うる心は髪にした玫瑰まいかいの花と共に、一日も忘れたと云うことはない。その明眸めいぼうは笑っている時さえ、いつも長い睫毛まつげのかげにもの悲しい光りをやどしている。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『それにけても、にくきは海賊船かいぞくせん振舞ふるまひ、かゝる惡逆無道あくぎやくむだうふねは、早晩はやかれおそかれ木葉微塵こつぱみぢんにしてれん。』と、明眸めいぼう凛乎りんこたるひかりはなつと、日出雄少年ひでをせうねんは、プイと躍立とびたつて。
「都を少しでも放れると、しからん話があるな、婆さん。」とばかり吐息といきとともにいったのであるが、言外おのずからその明眸めいぼうの届くべき大審院の椅子の周囲、西北さいほく三里以内に
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沈着、明眸めいぼう、ことば静かに話してなどいると、ひき込まれるような魅力があり、真に惚々ほれぼれする侍だが、わしはむしろ中国武士の鈍骨どんこつを愛する。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればかの明眸めいぼう女詩人ぢよしじんも、この短髪の老画伯も、その無声の詩と有声のぐわとに彷弗はうふつたらしめし所謂いはゆる支那は、むしろ彼等が白日夢裡はくじつむり逍遙遊せうえうゆうほしいままにしたる別乾坤べつけんこんなりと称すべきか。
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじの大道、炎天のもとひらけつつ、日盛ひざかりの町の大路が望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交う人は点々と蝙蝠こうもりのごとく
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、かたをはつて、春枝夫人はるえふじん明眸めいぼう一轉いつてんはるかのそらあほいだ。
張繍ちょうしゅうを討つべく遠征して、かえって惨敗を負って帰ったので、彼の絶大な自信にゆるぎがきたのか、また多情多恨な彼のこととて、今なお、芙蓉帳裡ふようちょうり明眸めいぼう
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七月×日、予は子爵と明子と共に、今夕馬車を駆つて、隅田川の流燈会りうとうゑを見物せり。馬車の窓より洩るる燈光に、明子の明眸めいぼうの更に美しかりしは、ほとんど予をしてかたはらに子爵あるを忘れしめぬ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二十歳はたちか、二十一、二ぐらいな、一方の気品のある明眸めいぼうの麗人は、おととしの秋、武州野火止のびどめの合戦で
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、愛相あいそのよい笑みを外へこぼした。——そしてちらと、武松の姿へ流し眼をむけた金蓮の明眸めいぼうといいその艶姿といい、はっと、男を蠱惑こわくするかのような何かがある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき美少年の明眸めいぼうも、久助の姿へそそがれた。十八、九歳の豊麗な容貌が、頭巾のうちで微笑していた。何か、おかしくてならないようである。そして、いま手にもどった印籠を
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)