すくい)” の例文
納戸へ転込ころげこんで胸を打って歎くので、一人の婦人おんなを待つといって居合わせたのが、笑いながら駆出して湯の谷からすくいに来たのであった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして我らキリストのすくいに浴して永遠の生命を信ずる者は、ヨブのこの詰問きつもんに対しては永生の真理を以てこれに答うるを最上のみちとする。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
されば孤独のわびしさを忘れようとしてひたすら詩興のすくいを求めても詩興更に湧き来らぬ時憂傷の情ここに始めて惨憺さんたんきょくいたるのである。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ああ、船長さん。私のことなんか、二の次にしてください。わたくしとしては、べつに、あなたがたからすくいをもとめるつもりはありません」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
純一は少し間の悪いような心持がしたので、すくいを求めるように大村を見た。大村は知らぬ顔をして、人のせ違うプラットフォオムを見ていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女に特有な負け嫌いな精神が強く働らかなかったなら、彼女はお秀の前に頭を下げて、もうすくいを求めていたかも知れなかった。お秀は云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人にすくいはないと説いたから、ルッターやカルヴィンやツウィングリなどの宗教改革が起こって、カトリック教会の教えにプロテスト(抗議)した。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
しからば下民かみんすくいこうむかみの大利とならん。その大益俗諺ぞくげんの如く、両の手にき物を得たるものというべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そこには日本人の商館もあるのですから、そこへかけ込んで、すくいを求めさえすればいいのです。港の方角を見ますと、遙か遙か向こうに、星のような燈火ともしびが、チラチラとまたたいています。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
金の剪刀はさみまたをすぼめて持っていて下さい。そしてすくいの日を知らせて下さい。
貧に迫って難渋なれば難渋の由を上へ訴えておすくいを乞うとか何とか訴出れば上に於て御褒美もくだし置かれる、しかるを打捨て置いて袖乞に出る迄の難渋をかけると云うは、其の方不取締ふとりしまりで有るぞ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その魂、すくいを求むれども神仏儒蛮いづれにも安心を得ず。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「あの人は‥‥あの人は‥‥今すくいを求めているのです!」
紅蓮ぐれん大紅蓮という雪の地獄に、まないたに縛られて、胸に庖丁をてられながら、すくいを求めてもだえるとも見える。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとりヨブに限らずすべて心霊の悩みはこれであって、同一の経過を経てついすくいに入るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
諸戸は、すくいを求めでもする様に、目をキョトキョトさせて、ふと押し黙ってしまった。私も、云うべきことが非常に沢山ある様でいて、つい口を切る言葉が見出せず、ムッツリと黙り込んでいた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたくしの難儀にお目を留められ、おすくいなされて下さりませ。855
さきにわれ泣きいだしてすくいを姉にもとめしを、かれに認められしぞさいわいなる。いうことをかで一人いで来しを、弱りて泣きたりと知られむには、さもこそとて笑われなむ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヨブの如きは熱心なる天然研究に依りて、信仰の養成をなしつつあったのである。勿論もちろんこの研究のみにて人は救われるのではない。しかしこれすくいの基礎とし準備として役立つことはうたがいない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
すくいになったことを、法王はまだおわすれにはなりませぬから。
さきにわれ泣きいだしてすくいを姉にもとめしを、かれに認められしぞさいわいなる。いふことをかで一人いでしを、弱りて泣きたりと知られむには、さもこそとて笑はれなむ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
侮辱と唾棄だきの表現のために、ね掛けられた柄杓の水さえすくいの露のしたたるか、と多津吉は今は恋人の生命いのちを求むるのに急で、焦燥しょうそうの極、放心のていでいるのであったが。
世に無き母にすくいを呼びて、取りすがる手を得三がもぎ離してじ上ぐれば、お録は落散る腰帯を手繰ってお藤を縛り附け、座敷の真中まんなかにずるずると、まげつかんで引出ひきいだし、押しつけぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早い話が、何と云ってすくいを呼びます、助船でもないだろう、人殺し……串戯じょうだんじゃない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
杖はいたずらに空に震えて、細い塔婆が倒れそうです。白い手がその杖にかかると、川の方へぐいとき、痩法師やせほうしの手首を取ったすくいなさけに、足は抜けた。が、御坊はもう腰を切って、踏立てない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細く沖ですくいを呼ぶ白旗のように、風のまにまに打靡うちなびく。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やっこ、弱い事、すくいを呼ぶ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)