懈怠けたい)” の例文
仕事に対する不平不満、生活の懈怠けたいや憂鬱も、すべてその声念のうちに溶かされて、百姓たちは、心から働くよろこびにひたりきった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佐久間玄蕃さくまげんば中入なかいり懈怠けたいのためか、柴田勝家しばたかついへしづたけ合戰かつせんやぶれて、城中じやうちう一息ひといき湯漬ゆづけ所望しよまうして、悄然せうぜんきたさうへとちてく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜舟を漕ぐような懈怠けたいが無いのみならず、そのもてあます思案がいよいよ重くなると共に、頭も、眼も、相当に冴えてくるのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は自分の芸術を励み信心を深めることによって、せめてこの隣人への直接の奉仕の懈怠けたいをつぐのわしていただきたいと念ずる者である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ただし時に懈怠けたい千万な猴が火を落したり、甚だしきは余念なく歓娯最中の客連の真中へ炬火を投げ込む事なきにあらず
いわば、百里の道の十里か二十里くらいのものである。九十里を半ばとするというに、十里二十里にしても、早くも懈怠けたいの念を起しては如何いかになるか。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
んで呑火和尚と云つた。即ち団九郎狸であつた。懈怠けたいを憎み、ひたすら見性けんしよう成仏を念じて坐禅三昧に浸り、時に夜もすがら仏像を刻んで静寂な孤独を満喫した。
閑山 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
お細工仰せつけられしは當春の初め、其後すでに半年をも過ぎたるに、いまだ獻上いたさぬとは餘りの懈怠けたい、もはや猶豫いうよは相成らぬと、上樣の御機嫌さん/″\ぢやぞ。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
思ふに天主もごへんの信心を深うよみさせ給ふと見えたれば、万一勤行ごんぎやう懈怠けたいあるまじいに於ては、必定ひつぢやう遠からず御主『えす・きりしと』の御尊体をも拝み奉らうずる。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
利生りしょう相見あいみえ豊年なれば、愈〻いよいよその瑞気ずいきを慕ひて懈怠けたい無く祭りきたり候。いま村にて世持役よもちやくと申す役名も、是になぞらへて祈り申す由に候。但し此時このとき由来伝へはなし有之これあり候也(以上)
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼らは、前二回の懈怠けたいを心から恥じ、七郷の人々合力の誠を尽くし、こぞって市九郎を援け始めた。その年、中津藩の郡奉行が巡視して、市九郎に対して、奇特の言葉を下した。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
日頃の懈怠けたいをお詫びしなければならないと思って、お堂へ参って、夜どおし念誦ねんじゅしていますと、ほかにもお籠りをする人たちがあって、話しているのを聞いていましたら、あゝ可哀そうに
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
但し懈怠けたいの申譯もあらば聽くべし。われ。此二日三日は不快の爲めに門を出ざりき。友。そはつたなき申譯なり。他人は知らず、我はそをうべなはざるべし。さきの夜樂劇オペラに往きしは何人なりけん。
岩角に懈怠けたいよろぼひ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
朝には、大名小名に対し、親愛を尽し、夕べには寵臣近習に向つて、政道の損益を評し、天下泰平の工夫、更に懈怠けたいもなかりけり。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧三 なにしろ今時の若いお弟子でしたちとは心がけが違っていましたからね。このように懈怠けたいふうの起こるのは実に嘆かわしいことと思います。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
信受の者懈怠けたいの心あらば走りせてその家に座さず、殊に霊験ある事多し、これは往古中禅寺に大なる鼠出て諸経を食い敗り害をなせし事ありしに
んで呑火和尚と言った。即ち団九郎狸であった。懈怠けたいを憎み、ひたすら見性成仏を念じて坐禅三昧に浸り、時に夜もすがら仏像を刻んで静寂な孤独を満喫した。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お細工仰せつけられしは当春の初め、その後すでに半年をも過ぎたるに、いまだ献上いたさぬとはあまりの懈怠けたい、もはや猶予は相成らぬと、上様うえさま御機嫌ごきげんさんざんじゃぞ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
総じてこの「じゃぼ」には、七つの恐しき罪に人間をさそう力あり、一に驕慢きょうまん、二に憤怒ふんぬ、三に嫉妬しっと、四に貪望とんもう、五に色欲、六に餮饕てっとう、七に懈怠けたい、一つとして堕獄の悪趣たらざるものなし。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
第三、第四、第五と、市九郎は懸命に槌を下した。空腹を感ずれば、近郷を托鉢し、腹満つれば絶壁に向って槌を下した。懈怠けたいの心を生ずれば、只真言を唱えて、勇猛の心を振い起した。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
少しも懈怠けたいなきようにとのお言葉でござりました。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
岩角に懈怠けたいよろぼひ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
いま、竹中半兵衛がそう告げて来たゆえ、やにわに起き出て、まず、城中の御社みやしろへ詣で、ここ数十日の懈怠けたいをおわび致して来た
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまごろのさんじさえ、ちと懈怠けたいと思われるのに、ぼッと出の河内の新守護などが、何の策を持ちましょうや。なるほど、金剛千早ではめざましい善戦を
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかもう少しのびやかに稀れにはおくつろぎ下さるこそ、われわれ麾下きかの者も、かえって歓ばしくこそ思え、毛頭、丞相の懈怠けたいなりなどとは思いも寄りませぬ
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆめ、ご懈怠けたいはなりません、……おお、お名残はつきませぬが、天上界と下界のへだたり、そういつまでもお引きとめはなりませぬゆえ、はや、すみやかにお帰りくだされませ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ私の生活や私のぎょうが仏のみこころに莞爾かんじとして受け容れていただくほどになっていないためと存じます、今日の出来事も、妻をめとり、法悦に甘えて、懈怠けたいを生じた私の心へ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兵庫ことは、天性、御奉公を懈怠けたいいたすようなものではござらぬが、何といっても、若年者、それに短慮たんりょのところもありますゆえ、落度あっても、死罪三たびまでは、おゆるしありたい」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「抜かりはあるまいが、夜明けまでは、一切、帯紐おびひもゆるめて、懈怠けたいはならぬぞ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれがこれほど自信をもって云っておること。懈怠けたいのあろうはずはなし……」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(朝夕、子や孫どもの愛にひかされては、少しでも、御奉公の懈怠けたいになる)
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……と云うて折角、これまで懈怠けたいなくお勤めもうして参ったものを、後わずか二百部で、断念するも遺憾いかんであると思い、覚淵御房におはからい申してみたところ、その志だけで、願意は立った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご会議は明日もおこなわれる。明日は懈怠けたいなくまかるがいい」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)