愁然しゅうぜん)” の例文
「加うるに君が居ても差支えない。諸君のような人ばかりなら、幾人いくたり居たって私は心配もなんにもしないが。」と梓は愁然しゅうぜんとして差俯向さしうつむく。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし干渉は来らないが、感傷の起るのはぜひもないと見えて、茂太郎は愁然しゅうぜんとして、同じ調子を二度繰返されてしまいました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高橋信造は此処ここまで話して来てたちまかしらをあげ、西に傾く日影を愁然しゅうぜんと見送って苦悩にえぬ様であったが、手早くさかずきをあげて一杯飲み干し
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ああ如何いかんして可ならん、仮令たとい女子たりといえども、もとより日本人民なり、この国辱を雪がずんばあるべからずと、ひと愁然しゅうぜん、苦悶に沈みたりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
大原うらめし顔「お登和さん、どうぞモーその事をおっしゃって下さいますな。アアとんでもない事を言ってしまった」と愁然しゅうぜんとして不快の色あり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれど金蓮はたちどころに、愁然しゅうぜんと泣きやつれた身をやっと奥から起たせて来たように、見事自分を作り変えている。そして、武松の前へ出てくるやいな
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後に残った甚五衛門は、杯盤狼藉はいばんろうぜきたる座敷の中に一人愁然しゅうぜんと坐ったまま、容易に動こうとはしなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
初さんの隣りがちょうどんでこれは昨日きのう火事でき出されたかのごとく愁然しゅうぜん算盤そろばんに身をもたしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「アクーリナ」は「ヴィクトル」の顔をジッと視詰めた……その愁然しゅうぜんとした眼つきのうちになさけを含め、やさしい誠心まごころを込め、吾仏とあおぎ敬う気ざしを現わしていた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
あまりに多くありすぎるのを考えて愁然しゅうぜんとし、『人生は短かすぎる』と幾度いくども言って嘆息たんそくした。
その音は、今井と僕との永久とわの別れを告げる悲しい響きであった。年上の娘は、顔を両手で隠して慟哭どうこくした。人々は愁然しゅうぜんとして、墓場の黄昏たそがれ背後あとにしながら、桜堂の山を下った——。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
青地は頭をたれ、長いあいだ愁然しゅうぜんとしていたが、そろそろと顔をあげ
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
先生のわが身に対する交情こそさる通一遍とおりいっぺんのものにてはなかりしなれ。火鉢を間にしてわれらは互に日本服着たる姿を怪しむ如く顔見合せ今更の如く昨日きのうとなりにし巴里のこと語出でて愁然しゅうぜんたりき。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一同はこの分裂ぶんれつの不幸に、愁然しゅうぜんとして首をたれた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、雪之丞は、手をつかえて、愁然しゅうぜんと立ち上がる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
Sは、愁然しゅうぜんとして、こういった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
もすそすらすら入りざま、ぴたと襖を立籠たてこめて、へや中央なかばに進み寄り、愁然しゅうぜんとして四辺あたりみまわし、坐りもやらず、おとがいを襟にうずみて悄然しょうぜんたる、お通のおもかげやつれたり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愁然しゅうぜんとして、老先生の頬に、寂しい影がさした。子供に返って、おいおいと、泣きたいような沈黙であった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とかく言われてお登和嬢にわか愁然しゅうぜん差俯さしうつむきぬ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
愁然しゅうぜんとしてまず早やこうべを垂れたのは、都下京橋区尾張町東洋新聞、三の面軟派の主筆、遠山金之助である。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗涙をのんで愁然しゅうぜんとした独りごと——「傷はとにかく、あの男の気性として、ここまで来ながら落伍らくごしては、さだめし、それが無念にたえまい。ああ遺憾至極いかんしごく
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と叫べる声、奥深きこの書斎をとおして、一種の音調打響くに、謙三郎は愁然しゅうぜんとして、思わず涙を催しぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悲涙をたたえ、愁然しゅうぜんと藩へ訴え出た。——願わくば死を賜わらんことを、一同、自決を覚悟してである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いえいえご酒宴を賜りながら、愁然しゅうぜんとふさぎこみ、私こそ申しわけありません。仔細はこうです。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と若山は花屋の奥に端近く端座して、憂苦にやつれ、愁然しゅうぜんとして肩身が狭い。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主従三人、愁然しゅうぜんと手をつかねて湖水のやみを見つめていると、瀬田川せたがわの川上、——はるか彼方あなた唐橋からはしの上から、炬火きょかをつらねた一列の人数が、まッしぐらにそこへいそいできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年も愁然しゅうぜんとして無言で居たが、心すともなく極めて平気な調子で
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、愁然しゅうぜん、口のうちでつぶやきながら、駒の歩むにまかせて行った。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主翁は拒むことあたわずして、愁然しゅうぜんとしてその実を語るべきなり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばらばらとそこを降りて、己れの部屋へ向いかけたが、その途中、先刻立った廻廊のところまでくると、そこに老臣や多くの者が寄り集まって、愁然しゅうぜんたるうちに、どこやら物騒がしく駈け廻っていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と民弥は言って、愁然しゅうぜんとすると、梅次も察して、ほろりと泣く。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と玄徳に促されて、心なしか愁然しゅうぜんと、成都へ帰った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愁然しゅうぜんとして襦袢じゅばんの袖
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一読、愁然しゅうぜんとしたきりであった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云いかけて愁然しゅうぜんたり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愁然しゅうぜんとゆくその影が。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)