年端としは)” の例文
その安宅という青年が邸に来たとき、妾は彼があまりに年端としはもゆかない様子なのを見て、一体何の用で来たのか会ってみたくなった。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なるほど、其方そちはまだ年端としはもゆかぬ。御後室と丹波と、予とのあいだに、いかなるもつれが深まりつつあるか、よくは知らぬのであろう」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
年端としはのゆかない少年に声を掛けられて、一寸迷惑そうな様子をみせた者も、そのひたむきなまなざしを見て、驚いたらしい。
美沢のことを、何かわがもののように話している美和子が、まだ年端としはの行かぬ妹とはいえ、何かうとましく、新子はいよいよおしだまっていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「何事も天命です。誰も怨む者はありません。ただ年端としはの行かぬせがれにこの上の苦労をかけるのがらさに死にます。どうぞよろしくお頼み申します」
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
年端としはもゆかない小娘が、しかも夜、ただひとり月の下で、無数の死骸の中にかくれ、いったい、何を働いているのか。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言って、おきみをもてあそんでみたり、年端としはも行かぬ娘としては出来過ぎて嫌味なものを、平気でうちけるのは、やはり母の子である証拠でしょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
年端としはのゆかぬ、見たところエプロンだけしかつけていない娘たちが、非常に忙しげにあちこちと走りまわっていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
こんな年端としはもいかぬ少年だったのでしょうか? しかもくりかえしてこの少年のけだかいこと、うつくしいことは、なんと水際だっていたことでしょう。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私は常に誰かに先鞭せんべんをつけられさうなことを気遣つて、だから年端としはのゆかぬ雪子にどうかして一日も早く意中を明かしたいと、ひとりくよ/\胸を痛めた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
かわいそうに、年端としはもいかぬ少年の心を、腹いっぱいのぜんざいでとらえ、航空兵をこころざした貧しい家の少年もいた。しかもそれで少年はもう英雄えいゆうなのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
秋から冬にかけてのかせぎ場に、雪の国からこの江戸へ流れ出してきている角兵衛獅子は、年端としはの行かぬ子どもだけでもじつに六十人近いおびただしい数でした。
トいってまだ年端としはも往かぬに、ことにはなまよみの甲斐なき婦人おんなの身でいながら、入塾などとはもっての外、トサ一旦いったんは親の威光で叱り付けては見たが、例の絶食に腹をすか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
亡夫の遺産は年端としはもゆかぬ庄吉がみるみる使い果し家屋敷は借金のカタにとりたてられ、執達吏しったつりはくる、御当人は逃げだして文学少女とママゴトみたいな生活して、原稿は売れず
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
罪のない子役のませた仕草しぐさは、涙脆なみだもろ桟敷さじき婦人をんな客を直ぐ泣かせる事が出来るので、横着な興行師しうち俳優やくしややは、成るべく年端としはかない、柄の小さい子役を舞台に立たせようとする。
父の名をさきに申し立てて、もしその歌が無下むげつたないときには、いえの恥辱になると思うてか。年端としはのゆかぬ女子おなごとしては無理もない遠慮じゃ。よい、よい。さらばわしも今は詮議すまい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十七や十八でこしらえる位だから碌なものではありません、其の翌年金五郎は傷寒しょうかんわずらってついなくなりましたが、年端としはもゆかぬに亭主には死別しにわかれ、子持ではどうする事も出来ませんのさ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鈴蘭のやうな薔薇ばらの花、アカデエモスの庭に咲く夾竹桃けふちくたうからんだ旋花ひるがほ、極樂の園にも亂れ咲くだらう、噫、鈴蘭のやうな薔薇ばらの花、おまへはにほひいろもなく、洒落しやれ心意氣こゝろいきも無い、年端としはもゆかぬ花だ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
年端としはも行かぬあわれな少女が死を決して死に損ねた。
今もそれをまことにいぶかしく思っている。どうしたわけで、あの年端としはもゆかぬはらからをいつも暗い座敷牢のなかに入れ置いたのであろう。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一味徒党の名前を云えというので、年端としはも行かぬ連中に、夜となく昼となく極烈な拷問をかけたというのだから、呆れた位では追付かない話である。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ここへ後から尋ねて来る者は、城太郎じょうたろうと申して、まだ年端としはのゆかぬ少年ですから、どうぞしかとお伝え願いまする」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せしめたのだ何處どこからもしりくる氣遣はねへしめろ/\と一同に飛懸らんずる樣子やうすゆゑ半四郎は心の中にさては此奴等我は年端としはゆかぬ若者とあなどおつな處へ氣を廻し酒代を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
していたが、まだ年端としはもいかない少年だとは思わなかった。少年でもあれくらいの考えを持っているのだから、成人した地球人は相当えらいのだろうね
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おおさ、年端としはもゆかぬ女童めわらべが指揮する野武士のぶしの百人足らず、なんで破れぬことがあろうか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『馬鹿な事ばしなさんな。年端としはも行かん児供こども中毒あたって死んだならどうしなさるな』
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「冗談じゃない。叡山というところは、お小僧なぞの行けるところではなし、また、おきてとして、年端としはもゆかぬ者や、入室して、半年や一年にしかならぬ者の登岳とうがくはゆるされぬ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源次郎は吉岡家の跡目相続人でもあれば、その者を立てるが、まだ年端としはもゆかぬ少年ゆえ、門弟何名かが、介添かいぞえとして立合いにつくということ……それも念のため申しておくぞ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十五の姫もその中のひとりであった。それが年端としはもゆかぬおとめの身で、どう落ちのびて来られたのだろうか、ともかく姫は或る夜この小野の里まで乳母の家を求めて帰って来た。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)