ともゑ)” の例文
ともゑの如き節操の甚だ堅からざる女人をんな多き時代にありて、袈裟御前なるもの実際世にありしか、或は疑ひを揷むの余地なきにあらず。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たゞ、彼をあんなにはづかしめた瑠璃子の顔が、彼の頭の中で、大きくなつたり、小さくなつたり、幾つにも分れて、ともゑのやうに渦巻いたりした。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ゆきそのまゝの待女郎まちぢよらうつて、つてみちびくやうで、まんじともゑ中空なかぞらわたはしは、宛然さながらたま棧橋かけはしかとおもはれました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
和田英作畫伯ぐわはくとは一昨年おとゝし春頃はるころしよ球突塲たまつきばはじめて御面識ごめんしきた。そして、一時はやつぱり近しよんでをられた小宮先生をまじへて、三ともゑ合戰がつせんまじへたものだつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
町家のひさし、塀の袂、——あらゆる場所から、御用の提灯が無數に現れてともゑになつて斬り結ぶ三人を照らし、それに續いて、十重二十重の捕物陣が、ヒタヒタと押し寄せます。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
五百丁のともゑもぐさをホグして、祖母の背中の方へ𢌞まはると、小さい燭臺しよくだいへ蝋燭をたて、その火をお線香にうつして、まづ第一のお灸を線香でつらぬき、口の中でブツブツ言つて
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
私は黒地の友染いうぜんの着物を着て出ました。模様の中に赤いともゑのあつたことを覚えて居ます。丁度ちやうどその日に私の家ではお祖母ばあさんが報恩講ほうおんかうと云ふ仏事を催して多勢の客を招いて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
相手あひて差置さしおき伯父九郎兵衞の前は道連みちづれの人が尋ねて參りしと申おきしに藤八はやがて酒宴の席をのぞき見れば二ツまげの後家のそばに居るともゑもんつきたる黒の羽織を着せし者と其そばに居る花色はないろ布子ぬのこしやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
またつるぎゆきともゑといふようなものをしてあるのも發見はつけんされます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
過れば木曾川に沿ふての崖道にて景色いふばかりなくよしともゑ御前山吹やまぶき御前の墓あり巴は越中ゑつちうにて終りしとも和田合戰ののち木曾へ引籠りしとも傳へて沒所さだかならず思ふにこゝは位牌所なるべし宮の腰に八幡宮あり義仲此の廣前ひろまへにて元服せしといふ宮の腰とは
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ともゑくづしたやうな、たゝきのながれこしらへて、みづをちよろ/\とはしらした……それも、女主人をんなあるじの、もの數寄ずきで……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼女が、いくら眠らうとあせつても、意識は冴え返つて、先刻の恐ろしい情景が、頭の中で幾度も幾度も、繰り返された。青年の凄いほど、緊張した顔が、彼女の頭の中を、ともゑのやうに馳け廻つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)