天魔てんま)” の例文
もはや、彦太郎は、天魔てんま魅入みいられたごとく、邪念から逃れ去ることが出来なくなったのである。女は、あら、徳利とくりがないわ、と云って出て行った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
この上に学問させたら、彼はいよいよ才学に誇って、果ては天魔てんまみいられて何事を仕いだそうも知れまい。学問はやめいと言うてくれ。しかと頼んだぞ
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あそすごしてつかすてしとは合點がてんゆかねど其方が打叩うちたゝかれても一言の言譯いひわけさへもせざりしゆゑ如何成いかなる天魔てんまみいりしかと今が今迄思ひ居たるに全く若旦那の引負を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
成経 (あざけるように)ではわしは天魔てんまでもまつりましょうよ。そしてあの清盛をのろってやりましょう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
けれど、彼方かなた天魔てんま鬼神きじんあざむ海賊船かいぞくせんならば一度ひとたびにらんだふねをば如何いかでか其儘そのまゝ見遁みのがすべき。
水道門のせきをきって、間道かんどうのなかへ濁水だくすいをそそぎこめ、さすれば、いかなる天魔てんま鬼神きじんであろうと、なかのふたりがおぼれ死ぬのはとうぜん、しかも、味方にひとりの怪我人けがにんもなくてすむわ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだゑんづかぬいもとどもが不憫ふびんあね良人おつとかほにもかゝる、此山村このやまむら代〻だい/\堅氣かたぎぱう正直しようじき律義りちぎ眞向まつかうにして、風説うわさてられたことはづを、天魔てんまうまれがはりか貴樣きさまといふ惡者わる出來でき
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
天魔てんま太郎はどうだ。将軍家光に天誅をくわえるのだ」
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
久八がすかさずたもとに取すがり此程もあれほど御いさめ申せしにお通ひ成るは何事ぞ其後も度々御見かけ申せど此久八にかくまはり少しも御身の落付ぬは如何なる天魔てんま魅入みいりしやと涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
甲板かんぱん自然しぜんぢ、水煙すいゑんそらぶよとえし、てい忽然こつぜん波底はていしづみ、しづんではうかび、うかんではしづみ、みぎに、ひだりに、まへに、うしろに、神出鬼沒しんしゆつきぼつ活動くわつどうは、げにや天魔てんまわざかとうたがはるゝ
殺さんと致せしは如何なる天魔てんま魑入みいりしやと今更後悔仕こうくわいつかまつるもせんなき事なればせめては罪障ざいしやう消滅せうめつため懺悔ざんげ仕つるなり因ては御殿場村の條七娘里儀の不義も何も引纏ひきまとめて惡事は此九郎兵衞なれば御はふどほりの御所刑しおき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)