大島おおしま)” の例文
この両人ふたりが卒然とまじわりていしてから、傍目はためにも不審と思われるくらい昵懇じっこん間柄あいだがらとなった。運命は大島おおしまの表と秩父ちちぶの裏とを縫い合せる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ハヽヽヽ(葉子がその言葉につけ入って何かいおうとするのを木部は悠々ゆうゆうとおっかぶせて)あれが、あすこに見えるのが大島おおしまです。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これについて思い出すのは十余年前の夏大島おおしま三原火山みはらかざんを調べるために、あの火口原の一隅いちぐうに数日間のテント生活をした事がある。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
溺死体できしたいが高価な衣類を着用していたなら(六郎氏はあの夜大島おおしまの袷に鹽瀬の羽織を重ね、白金プラチナの懐中時計を所持して居りました)
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天子てんしさまはたいそうおおどろきになり、伊豆いず国司こくし狩野介茂光かののすけしげみつというものにたくさんのへいをつけて、二十余艘よそうふね大島おおしまをおめさせになりました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
大正十二年のおそろしい関東大地震の震源地は相模さがみなだの大島おおしま北上きたうえの海底で、そこのところが横巾よこはば最長三海里、たて十五海里のあいだ、深さ二十ひろから百ひろまで
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その当時は今の浦戸港の入江が奥深くり込んで、高知市の東になった五台山ごだいざんと呼んでいる大島おおしまや、田辺島たべしま葛島かずらしま比島ひしまなど云う村村の丘陵が波の上に浮んでいた。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人々は「結城ゆうき」と云い、「大島おおしま」と云い、「八丈はちじょう」と云う。すべてが郷土を記念する呼び方である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もっともこの二三年は彼にも変化のないわけではなかった。彼はある素人下宿しろうとげしゅくの二階に大島おおしまの羽織や着物を着、手あぶりに手をかざしたまま、こう云う愚痴ぐちなどを洩らしていた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あるとし初夏しょかのころ、かれは、ついにうみわたって、あちらにあった大島おおしま上陸じょうりくしました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
東京の附近で、そだった人などは、これを見ようと思えば伊豆いず大島おおしまか、それから南の島々に行くよりほかはないが、わずか以前は伊豆半島の南部でも、また房州ぼうしゅうにもそれがいくらもあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日本の着物が気に入って、大島おおしまそろいの着物と羽織とを作って時々着ていた。特に浴衣ゆかたが好きで、夏になると、よく浴衣がけで素足すあしに下駄をひっかけて、神楽坂の夜店を素見ひやかしていたものである。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし、凡児一行が大島おおしまへ行ってからはどうも失敗である。全体が冗長すぎるばかりでなく、画面の推移の呼吸がちっとも生きていない。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
目も届かないような遠くのほうに、大島おおしまが山の腰から下は夕靄ゆうもやにぼかされてなくなって、上のほうだけがへの字を描いてぼんやりと空に浮かんでいた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこで為朝ためとも死罪しざいゆるして、そのかわつよゆみけないように、ひじのすじいて伊豆いず大島おおしまながしました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私は出発の前にこしらえて置いた、その頃兄が毎日着ていたふだん着の大島おおしまと同じ着物を着て、——勿論もちろん
客は註文を通したのち横柄おうへいに煙草をふかし始めた。その姿は見れば見るほど、敵役かたきやく寸法すんぽうはまっていた。あぶらぎったあから顔は勿論、大島おおしまの羽織、みとめになる指環ゆびわ、——ことごとく型を出でなかった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
為朝ためともおにしまたいらげたついでに、ずんずんふねをこぎすすめて、やがて伊豆いず島々しまじまのこらず自分じぶん領分りょうぶんにしてしまいました。そしておにしまから大男おおおとこ一人ひとりつれて、大島おおしまかえってました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かつて自分がN先生とI君と三人で大島おおしま三原山みはらやまの調査のために火口原にテント生活をしたときの話が出たが、それが明治何年ごろの事だったかつい忘れてしまってちょっと思い出せなかった。
詩と官能 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この前後伊豆いず大島おおしま火山が活動していた事が記録されているが、この時ちょうど江戸近くを通った台風のためにぐあいよく大島の空から江戸の空へ運ばれて来て落下したものだという事がわかる。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)