図々ずうずう)” の例文
旧字:圖々
まして、わたしに何も請求したわけではない。人の顔を穴のあくほど見据みすえる、例の図々ずうずうしい女でもない。彼女は中をのぞいても見ない
一番年上の男の子は、いきなり炉から燃えさしの木の大きな根っこを持ちあげるがいなや声も立てず、図々ずうずうしい犬になげつけた。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
けれどもそれは、いかにも図々ずうずうしい事のようだから、そこの小さい窓から庭を、むさぼるように眺めるだけで我慢する事にした。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「話によっては、ぼくも君に協力してあげないこともないが、しかしとにかく、君の礼儀を失した図々ずうずうしいやり方には好意がもてないよ」
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長い年月舞台を踏んでいるのだし自分でも相当図々ずうずうしい女だとおもっているのにやっぱり駄目だ、——と言ったことがある。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
弦四郎の方はどうかというに、彼の図々ずうずうしさと機智とによって、丹生川平の別天地に、依然として住居することが出来た。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は、下働きが薬局へ這入ると、そこへも図々ずうずうしく這入りこんで、一本だけ手に抱えた。時計が寂しくなっている。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
後で私はそのことをせん老婆ばあやから聞きました。よく図々ずうずうしくも、私の蒲団ふとんなぞに眠られたものだと思いましたよ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
斯うされると益〻気が咎めると見えて、しまいには私の枕元へ坐り込みました。それでも図々ずうずうしいものね。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
図々ずうずうしく来たなと天蔵は眼をかがやかした。しかし、案外な気がふとしなくもなかった。というのは
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんまり図々ずうずうしいから首はこうしてさらして置けとそのお武士がおっしゃる、望月様もあんまりひどい目に会わせられましたから、口惜しがって、その武士のお言付いいつけ通り
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
客観的には憎ったらしい程図々ずうずうしく、しっかりとした足どりで、歩いたらしい。しかも一つ処を幾度も幾度もサロンデッキを逍遙しょうようする一等船客のように往復したらしい。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
振向くと、アア何という図々ずうずうしい奴だ。品川四郎がニコニコして、そこに立っていたではないか。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ええ? どこまで図々ずうずうしい子なンだ! 親が何かいっているのに、地面ばっかり見つめてさ……母さん、お前のような白ッ子みたいに呆けた子なンか捨てっちまうよッ」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
中々食えぬ老人としよりには相違無いが、此時の顔つきには福々しさも図々ずうずうしさも無くなって、ただ真面目ばかりが充ちあふれていた。ところが、それに負けるような主人では無かった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「そうとう、図々ずうずうしいわね。百円以上もカケをこしらえてさ。一文も払わずに、また——」
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「しかし、よくもこう大勢お歴々の揃っておる場所へ、図々ずうずうしく現れたものじゃな」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「わたしね、お店を辞めたのよ。もっともこの間じゅうから腹の内で決めていたんだけれども、あの親父おやじがあんまりいけ図々ずうずうしくっていやになってしまって、予定を繰り上げたわけだわ」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「まだあすこにえているわ。ほんとうに図々ずうずうしい野良犬のらいぬね。」などと、地だんだを踏んでいるのです。坊ちゃんも、——坊ちゃんは小径こみち砂利じゃりを拾うと、力一ぱい白へ投げつけました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が一分もたつと、彼の顔は急に変わり、妙にとってつけたようなずるい表情とわざとらしく図々ずうずうしい態度をこしらえながら、ラスコーリニコフを見やった。そして、笑い出しながら言った。
で、少し図々ずうずうしいとは思ったけれど、万事河田さんにお頼みすることにした。
また図々ずうずうしくやっては行ったが、今度は私も考えなければならなかった。
彼はこの界隈の英雄で、腕ずくと図々ずうずうしさとで名をとどろかしていた。
七五郎 だって、お前、図々ずうずうしく、居ねえなんてかすからよ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
回想おもいだして「水の世話にさえならなきゃ如彼あんな奴に口なんかかしや仕ないんだけど、房州の田舎者奴いなかものめが、可愛がって頂だきゃ可い気になりゃアがってどうだろうあの図々ずうずうしい案梅あんばいは」とお徳の先刻さっきの言葉を
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
右釈明旁々かたがた近日参邸いたし度く——あゝ何と云う図々ずうずうしさだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
驚くべく図々ずうずうしいものでもあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ワーリャ まあ、いけ図々ずうずうしい!
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何という図々ずうずうしい奴だろう——
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「しずかにしているんだよ。怪物どもがすっかり姿をあらわして、図々ずうずうしくなるまで、ぼくたちは石の像のようにしずかにしているんだよ」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人を救うなんて、まあ、そんなだいそれた、(第一幕に於けるが如き低い異様な笑声を発する)図々ずうずうしいにもほどがあるわ。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いかに太郎丸図々ずうずうしい、度胸を持っていようとも、とりでにも当らぬこの屋敷を、こう十重二十重に囲まれては、策を
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
狼心狗行ろうしんくこう曲者くせものめが、なんの面目めんぼくあって、太陽の下に、いけ図々ずうずうしくも、人間なみな言を吐きちらすぞ
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
図々ずうずうしいにもほどがある、やつはハンケチを振っている!」彼はうなった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
小町 まあ、何と云う図々ずうずうしい人だ! 嘘つき! 九尾きゅうびの狐! 男たらし! かたり! 尼天狗あまてんぐ! おひきずり! もうもうもう、今度顔を合せたが最後、きっと喉笛のどぶえみついてやるから。口惜くやしい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あきれるばかりに図々ずうずうしいつらの皮千枚張りの詭弁きべん、または、淫祠いんし邪教のお筆先、または、ほら吹き山師の救国政治談にさえ堕する危険無しとしない。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
「貴様は、相当図々ずうずうしいやつだ。一たい、誰のゆるしを得て、このノーマ号のうえを歩いているのか」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、意次にはそれがかえって、図々ずうずうしく太々しく思われた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自業自得を、人の責任におっつけるのは、図々ずうずうしすぎるぜ
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
竹童は図々ずうずうしい相手のことばにびっくりして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
図々ずうずうしくこちらから近寄って手を差しのべ、「どうしたの?」などと逆襲されると、これはまた大恥辱であるから、僕は知らん顔をしていたのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「まあ、図々ずうずうしいのネ、近頃の処女は——」
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
次第に図々ずうずうしくなって来る。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「芹川も、いつのまにやら図々ずうずうしくなってしまいやがった。この図々しさが、作品にも、少し出るといいんだがねえ。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は田舎者の図々ずうずうしさで、さらにそのとし「思い出」という作品を発表し、もはや文壇の新人という事になった。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「じゃ私たちは、もう二、三日、金木の家へ泊めてもらって、——それは図々ずうずうしいでしょうか。」
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
図々ずうずうしい、わがままだ、勝手だ、なまいきだ、だらしない、いかなる叱正しっせいをも甘受いたす覚悟です。只今、仕事をして居ります。この仕事ができれば、お金がはいります。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
あのひとの持っているのは、田舎者の図々ずうずうしさ、馬鹿ばかな自信、ずるい商才、それだけなんです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕は誰にでも、有名な人から手紙を貰うと、んな訳の分らぬ図々ずうずうしい宣伝文を書く癖があるのでしょう。いや、この前、北川冬彦氏から五六行の葉書を貰った時だけです。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
口が達者で図々ずうずうしく、反省するところも何も無い奴には、ものも言いたくないし、いきなり鮮やかな背負投げ一本くらわせて、そいつのからだを大きく宙に一廻転させ、どたん
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)