噴飯ふきだ)” の例文
年内の御重宝ごちょうほう九星売が、恵方えほうの方へ突伏つっぷして、けたけたとたまらなそうに噴飯ふきだしたれば、苦虫と呼ばれた歯磨屋はみがきやが、うンふンと鼻で笑う。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
Naiveな、可憐かれんな、見ていても噴飯ふきだしたくなるような連中だ。御蔭で私も紛れて行った。Iの方は私の家の大屋さんの娘だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
子供のようなからだに、しかつめらしいかみしもを着ているのだから、ふだんなら噴飯ふきだすものがあるかも知れないがいまは、それどころではない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
柳麗玉 (気を引き立てるように噴飯ふきだす)ぷっ、嫌よ、あんなやつに似ちゃあ——。で、どうしようっていうの?
あきれた酒井は、ふつと、噴飯ふきだしかけたのを半巾ハンケチくわへて後ろ向きになつたが、込みあげてくる笑ひが止まらず
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
そうして腕を組み直しながら、今一度よく考え直してみましたが、そのうちに私は又、とてもおかしい……噴飯ふきだしたいくらい変テコな事実に気が付いたのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ダイアナとメァリーが歸つて來ると、ダイアナは自分の生徒が兄の生徒になつて了つたと知つて噴飯ふきだした。
そのつらつきいと真面目まじめなれば逃げんとしたれども、ふと思い付きて、まずからをとりてたまわれと答えける。亭主噴飯ふきだして、さてさておかしきことを云う人よと云う。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
光秀もおそらく竹槍をかついで逃げ出すよりほかはあるまい。私は独りで噴飯ふきだしてしまった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふとくすぐられるようなゆるびを覚えて、双方で噴飯ふきだしてしまうようなことはこれまでにめずらしくなかったが、このごろの笹村の嫌厭けんえんの情は妻のそうした愛嬌チャームを打ち消すに十分であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
甲乙ふたり噴飯ふきだして、申し合したように湯衣ゆかたに着かえて浴場ゆどのに逃げだしてしまった。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ルパンは突然プッと噴飯ふきだした。そして死骸をつかんでグイとそばへ押し転がした。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
すべてのおそろしさも打ち忘れてプッと噴飯ふきださずにはゐられなかつた。
篠田は腹を拘へて噴飯ふきだせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
女のような、形のいい小さなあごを、引き気味にしていた。ぞっとするほど通った、高い鼻だった。おちょぼ口が、いまにも噴飯ふきだしそうに歪んでいた。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とお房は妹を手招きして呼んで、やがて棺の中に眠るようなお繁の死顔をのぞきに行った。急に二人の子供は噴飯ふきだした。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と正木博士は噴飯ふきだした。その拍子にみ込みかけていた葉巻の煙にせて、苦しさと可笑おかしさをゴッチャにした表情をしながら、慌てて鼻眼鏡を押え付けた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お吉とも/″\噴飯ふきだして笑ひ、清吉昨夜は如何したか、となぶれば急に危坐かしこまつて無茶苦茶に頭を下げ、つい御馳走になり過ぎて何時か知らず寝て仕舞ひました、姉御
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ダイアナは噴飯ふきだした。「まあ、セント・ジョン、この方はまだせい/″\十七か十八よ。」
あのくちばし丹念たんねんに、這奴しやつむねはらのこりなくむしつて、赤裸あかはだかにしたところを、いきみをくれて、ぬぺらとして、葉隱はがくれに……へたばる人間にんげんをぎろりとにらんで、噴飯ふきだよし
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ハッハッハッハッハッハッ」と二三人が噴飯ふきだして了った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「うふッ」叩きつけられたように伏していた喬之助が、噴飯ふきだしたのだ。「あははははは、御苦労な! 土偶人形でくにんぎょうの勢揃い……カッ! これでもくらえッ!」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中には、手をたたいて、踊り上って笑うものもあった。それを聞くと、私も噴飯ふきださずにはいられなかった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
誰も噴飯ふきだして笑うので有りますが、当今の紳士の旅行の状態を見ると、余り贅沢過ぎて何の事は無い、つまり御茶壺になって歩いて居るのだ、と或人が評を仕ましたのを聞いて
旅行の今昔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ハッハッハッハッハッ」と一同が噴飯ふきだして了った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女中も思わず噴飯ふきだして
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
去年——一昨年——一昨々年——あゝ、未だ世の中を其程それほど深く思ひ知らなかつた頃は、噴飯ふきだしたくなるやうな、気楽なことばかり考へて、この大祭日を祝つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むくむくと起き上ったる清吉寝惚眼ねぼれめをこすりこすり怪訝顔けげんがおしてまごつくに、お吉ともども噴飯ふきだして笑い、清吉昨夜ゆうべはどうしたか、となぶれば急にかしこまって無茶苦茶に頭を下げ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
絵でも、見ようによっては、おちょぼ口が、いまにも噴飯ふきだしそうに歪んでいた。夢と同じに、お久美にとって、生れるまえから相識のような、たまらなくなつかしいものに思われてならない顔だった。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
榊も噴飯ふきだした。「姉さん、この二人は株屋に成りたてなんです。まだ成りたてのホヤホヤなんです」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
客がすずしい、ほれぼれとするような声をっていることは岸本もよく知っていた。この無邪気とも言えない、しかし子供のように噴飯ふきだしたくなるような告白は岸本を驚かした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
読む繁も聞く泉太も二人とも噴飯ふきだしてしまった。その時、泉太の方は何か思出したように
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三吉は噴飯ふきだして了った。お雪は巻煙草の灰を落しながら、二人の話を聞いていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は節子が学問した娘のようでも無いことを言出したので、噴飯ふきだそうとした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼様あんな立派なことを言つて居ましても、畢竟つまり猪子といふ人を抱きこんで、道具に使用つかふといふ腹に相違ないんです。彼の男が高尚らしいやうなことを言ふかと思ふと、私は噴飯ふきだしたくなる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
熊吉は往来で姉の風体ふうていを眺めて、子供のように噴飯ふきだしたいような顔付を見せたが、やがて連立って出掛けた。町で行逢う人達はおげんの方を振返り振返りしては、いずれも首をかしげて行った。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ああ、ツライなあ、運が悪いなあ」などと戯れて、直樹が手に持った札を数える若々しい声を聞くと、何時もお雪は噴飯ふきださずにいられないのであるが、その晩は一緒に遊ぼうともしなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「叔父さんは好かった」と小金と老松の間に居る年増としま噴飯ふきだした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを見ると、私は子供のように噴飯ふきだしたくなる。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)