たヾ)” の例文
真実ほんたうにあなたはお可哀相かあいさうです。お可哀相かあいさうです。あのかたのことをあなたが私へお話しになつたことはたヾ一度しかありません。結婚して一月ひとつきも経たない時分でした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
本尊の阿弥陀様の御顔おかほは暗くて拝め無い、たヾ招喚せうくわんかたち為給したまふ右の御手おてのみが金色こんじきうすひかりしめし給うて居る。貢さんは内陣を出て四畳半の自分の部屋にはいつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
おとしなさるな、とびもならず、にはかに心付こヽろづき四邊あたりれば、はなかぜれをわらふか、人目ひとめはなけれど何處どこまでもおそろしく、庭掃除にはそうぢそこそこにたヾひとはじとはか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三郎の寝床がなくなつてからのあなたの蚊帳かやの中の様子は海の中にたヾ一つある島のやうであると思つて、この前と同じやうな淋しさを私が感じると云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まへさまのことよろしくおたみ承知しようちしてればすこしも心配しんぱいことはあらず、たヾこれまでとちがひて段々だん/\大人おとなになり世間せけん交際つきあいらねばならず、だい一に六づかしきはひと機嫌きげんなり
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たヾねかしとすてものにして、部屋へやよりそとあしさず、一心いつしんくやめては何方いづかたうつたふべき、先祖せんぞ耻辱ちじよく家系かけいけがれ、兄君あにぎみ面目めんもくなく人目ひとめはずかしく、我心わがこヽろれをめてひる
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時のも覚書以上の物ではありませんし、たヾ今と同じやうにあなたの見て下さるのに骨の折れないやうにと雑記帳へ書くこともしたのでしたが、今よりは余程瞑想的な頭が土台になつて居ました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)