呪咀じゅそ)” の例文
お袖は、たちまち、顔じゅうを涙にしながらも、呪咀じゅその火、そのもののように、眸も、頬も、耳までも燃やして、なおいいつづけた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて最後に、彼が嘗て軍医として活躍したにもかかわらず、戦争の問題になると、徹頭徹尾戦慄と呪咀じゅその心を表明していたことを書き添えておく。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「とにかく権四郎が悪い。あれは恋敵の高松半之丞に違いない。半之丞の呪咀じゅそが、彼を文字どおりの悪鬼にかえたのだ」
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今断末魔の餌差宗助のこいの様なくちびるから、身の毛もよだつ呪咀じゅその言葉を読み得たであろうものを惜いかな、彼は、唇の文字には少しも通じていなかった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
定めとてもない漂泊の旅に転々として憂世うきよをかこちがちな御面師が、次第に自分の名前にまでも呪咀じゅそを覚えたというのが、漠然ながら私も同感されて見ると
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
彼が壁につき当ってよろめいているあいだに、私は呪咀じゅその言葉とともにとびらをしめて、彼に剣を抜けと命じた。
怒りならば、軽蔑ならば、憎悪ならば、ないしは呪咀じゅそならば、怨みならば、まだまだ救われる余地がある!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宗教学部門 幽霊、生霊、死霊、人魂、鬼神、悪魔、前生、死後、六道、再生、天堂、地獄、たたり、厄払い、祈祷きとう、守り札、呪咀じゅそ、修法、霊験、応報、託宣、感通の類
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
貴族や富豪に虐げられる下層階級者に同情していても権力階級の存在は社会組織上止むを得ざるものと見做みなし、渠らに味方しないまでも呪咀じゅそするほどに憎まなかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
準之助は、他人を一歩も仮借しようとしない、夫人の増上慢に、……その無残な仕打に、良人として、いな一人の人間として、呪咀じゅその叫びを上げずにはいられなかった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
飲みなれぬ酒に胸をただらし気まぐれに乗った郊外電車をとある駅にてると、ただ無茶苦茶に、ぶつぶつと独言ひとりごとをいいながら——それは多分、かの女に対する呪咀じゅそと、ああ
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
奇妙にポチを呪咀じゅそし、ある夜、私の寝巻に犬ののみ伝播でんぱされてあることを発見するに及んで、ついにそれまで堪えに堪えてきた怒りが爆発し、私はひそかに重大の決意をした。
……おくよ、をばかみたゞ一人ひとりしかたまはらなんだのを不足ふそくらしうおもうたこともあったが、いまとなっては此奴こやつ一人ひとりすら多過おほすぎる、りもなほさず、呪咀じゅそぢゃ、禍厄わざはひぢゃ、うぬ/\、賤婢はしたをんなめ!
冷めたさと空虚と未来への絶望と呪咀じゅその如きものが漂っているように感じられる。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
わたしはヴォルテェルを軽蔑けいべつしている。若し理性に終始するとすれば、我我は我我の存在に満腔まんこう呪咀じゅそを加えなければならぬ。しかし世界の賞讃しょうさんに酔った Candide の作者の幸福さは!
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
即ち今日に於てこの一夫一婦制を棄てて、自由恋愛の美名の下に、原人時代の雑婚に復帰せんとするは、これ明らかに社会的共同生活を呪咀じゅそし、これを根柢こんていより破壊せんと欲するものにほかならぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
子供の行末のために、解けない呪咀じゅそが懸けられるような気がした。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何世紀立っても消えない、一番ひどい呪咀じゅそで、君をのろうまでだ。
こうして夜明けを待っていても、自分をつつむ吉岡門の呪咀じゅそや、策や刃ものをしている気配は、全身に感じている武蔵であった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母親から受け継いだ呪咀じゅその血が、醜い肉体の中で、地獄の業火ごうかに湧きたぎった。それからの十幾年、彼女は最早もはや人間ではなかった。鬼であった。呪いの化身であった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
第五種(呪願じゅがん編)祭祀さいし、鎮魂、淫祀いんし祈祷きとう、御守、御札、加持、ノリキ、禁厭きんよう呪言じゅげん呪咀じゅそ、修法
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
台所のおさんどんまで時間制を高唱して労働運動に参加しようとする今日の思潮は世間の大勢で如何ともする事が出来ないのを、官僚も民間も切支丹破天連の如く呪咀じゅそして
呪咀じゅそも、予言も、闘志も、魔力も、うばからことごとく失われたようであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(羽の生えたる神人の如き、奇怪なる呪咀じゅその挙動。)
けれどそれは、このになって、甚三郎の死を悲しむ涙などではなかった。もっと強い、反抗的な、呪咀じゅそをこめた——口惜し涙であった。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
消印けしいんはどれもこれも違った局のであった)復讐の呪咀じゅその言葉のあとに、静子のある夜の行為が、細大さいだいらさず、正確な時間を附加えて記入してあることに変りはなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一日一日と屍骸しがいは増え、道に横仆わった屍骸をめがけて幾百ともない烏の群が遠い国から集まって来た。号泣、憤怒、怨恨、呪咀じゅそ、そして町々辻々からは腐った屍骸の悪臭が昼夜となく立ち昇った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呪咀じゅそことばで理性を縛して置いて、そのかわり
奪わんとする高御曹司の執拗しつよう呪咀じゅそが、さまざまな形となって、わが妻と家庭を悩ましおびやかし通してきたものに違いありませぬ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ありとあらゆる歎願と呪咀じゅそが、絶えては続き、絶えては続き覗き穴を漏れて来た。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お袖が、いかに、呪咀じゅそに燃えて、越前守を恨もうとしても、その越前との仲にした子の愛をもって説かせれば——と、彼はその成功を信じていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ程も、悪魔の呪咀じゅそは恐るべく憎むべきものであった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
武蔵にとっては、恐らく、これ以上、危ない地上はない呪咀じゅその山へ、きのう伊織を連れて、上って来たのであった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人を憎んだりそねんだりすることは、日常、人一倍烈しいたちの又八であるが、呪咀じゅそするほどの強い意力は、人を恨むことにすら出来ないたちの又八であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貞盛を見るときは、眼の内へも入れてしまいたいような愛情にろけるこの老父が、将門という名を聞いただけで、眸の底から呪咀じゅその光を見せるのだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のろったり、そのほか辛辣しんらつな悪口や呪咀じゅそが、消しても消しても、何者かが書きちらして行った。もちろんその筆蹟や辞句から見ても、町人の悪戯いたずらでないことは明白だった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驍勇ぎょうゆう並ぶ者なきあなたと、伝国の玉璽を所有して、富国強兵を誇っているところの袁家とが、姻戚いんせきとして結ばれると聞いたら、これを呪咀じゅそ嫉視しっしせぬ国がありましょうか」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこのむくいを、男におもい知らさねばと、呪咀じゅそに燃えつつ誓っているのであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、彼女の美貌びぼうまでが、養父のめている金と共に、呪咀じゅその的に見られていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何となれば、貞盛こそは、年来、相馬殿を亡くさんと、都と坂東ばんどうの間を往来し、あらゆる虚構と奸智かんちをかたむけて、主人将門殿を呪咀じゅそしている卑劣者だ。——その貞盛が、常陸に潜伏している。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呪咀じゅその眼に似ていた。妻へ宛てた文の目を封じる手さえわなわなさせ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより武蔵の剣はさつでなく、人生呪咀じゅそでもない。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)