吹聴ふいちやう)” の例文
旧字:吹聽
唯幾分か新しかつただけである。が、「死者生者」は不評判だつた。「芋粥」は——「芋粥」の不評判だつたのは吹聴ふいちやうせずとも善い。
左様さうぢやないか——世間体の好いやうな、自分で自分に諂諛へつらふやうなことばかり並べて、其を自伝と言つてひと吹聴ふいちやうするといふ今の世の中に
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
B小説家の新作小説は、先日こなひだ月賦払ひでやつと買取つたモウパツサン全集の焼直しに過ぎないとかいふ事を、ごく内々ない/\吹聴ふいちやうするのを道楽にしてゐる。
『その席で君にも絵を描かせようといふのだよ。張帥に君の凝り工合を吹聴ふいちやうしたのだ。それだけの話なのさ』
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
此家うちの水はそれは好い水で、演習行軍に来る兵隊なぞもほめて飲む、と得意になつて吹聴ふいちやうしたが、其れは赤子の時から飲み馴れたせいで、大した水でもなかつた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
親友知己等ちきらへも吹聴ふいちやうしたのです、御笑ひ下ださるな、恋は大人おとなをも小児こどもにする魔術です、——去れば今日こんにち、貴嬢から拒絶されたと云ふことが知れ渡つたものですから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし、恥を知らぬ、自堕落な連中が、どこ迄も只道楽を道楽として臆面もなく下等に馬鹿話を吹聴ふいちやうし合つてゐる時、一人沈黙を守るのは偽瞞でもなければる事でもない。
コレハ/\よく作られたと賞揚しやうやうばん、そのあと新詩しんし一律いちりつまたおくられては、ふたゝび胸に山をきづく、こゝはおほきかんがへもの、まのあたさゝげずに遠く紙上しじやう吹聴ふいちやうせば、先生ひげにぎりながら
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
あながちにおのが見証をもつて世に吹聴ふいちやうせんとにはあらず、唯だ吾が鈍根劣機を以てして、ほ且つこの稀有けうの心証にあづかることを得たるうれしさ、かたじけなさのおさへあへざると、且つは世の
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
異人が来ては日本の為にならぬと思ひ込みたるやからは、自分には知らぬ事ながら我が生国しやうこくの恥辱を世間一般に吹聴ふいちやうするも同様にて、気の毒千万なれば、この人々の為めいささか弁解すべし……
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
アヽ当家たうけでも此頃このごろかういふ営業えいげふを始めたのぢや、殿様とのさま退屈凌たいくつしのぎ——といふばかりでもなくあそんでもられぬからなにがな商法しやうはふを、とふのでおはじめになつたから、うかまア諸方しよはう吹聴ふいちやうしてんなよ。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
なほ次手に吹聴ふいちやうすれば、久保田君は酒客しゆかくなれども、(室生を呼ぶ時は呼び捨てにすれども、久保田君はいまだに呼び捨てに出来ず。)海鼠腸このわたを食はず。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
現に番人がその話を自慢に吹聴ふいちやうしたといふではないか。それを聞いた時は工夫の群まで笑つたといふではないか。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我家のともしびが消えたと云つて愁歎しうたんしてらしたのですよ、紀念かたみの梅子を男の手で立派に養育して、雪子の恩に酬ゆるなんて吹聴ふいちやうして在らつしやいましたがネ、其れが貴郎あなた
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なほ次手ついで吹聴ふいちやうすれば、先生は時々夢の中にけものなどに追ひかけられても、逃げたことは一度もなきよし。先生のたん、恐らくは駝鳥だてうの卵よりも大ならん
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其処で長左衛門様の御先達おさきだちで朝廷へ直訴ぢきそと云ふことになつたので御座りましたよ、其れを村の巡査が途方もうそツぱちを吹聴ふいちやうして、騒動が始まるなんて言ひ振らしたので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そこは抜目の無い、細工の多い男だから、根津から直に引返すやうなことをないで、わざ/\遠廻りして帰つて来たものと見える。さて、坊主をつかまへて、片腹痛いことを吹聴ふいちやうし始めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
中には彼女が在学中、既に三百何枚かの自叙伝体小説を書き上げたなどと吹聴ふいちやうして歩くものもあつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何故、あの猪子蓮太郎の著述が出る度に、自分は其を誇り顔に吹聴ふいちやうしたらう。何故、彼様に先輩の弁護をして、何か斯う彼の先輩と自分との間には一種の関係でもあるやうにひとに思はせたらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし断えたるをいだ功は当然同氏にぞくすべきである。この功は多分中戸川氏自身の予想しなかつたところであらう。しかし功には違ひないから、ついで此処ここ吹聴ふいちやうすることにした。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アメリカの女学生の生活を天使の生活のやうに吹聴ふいちやうしてゐたが、あの記事なども、半世紀後のアメリカ人の目にれたらば、やはり、マツクフアレエンの「ジヤパン」と同じやうに
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、僕がKの話をした小説家と云ふのは、気の小さい、大学を出たての男で、K君の名誉にかかはる事だから位、おどかして置けば、決して、モデルが誰だなぞと云ふ事を、吹聴ふいちやうする男ぢやあない。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとポプラア倶楽部クラブ芝生しばふに難を避けてゐた人人もいつ何時なんどき隣の肺病患者を駆逐くちくしようと試みたり、或は又向うの奥さんの私行を吹聴ふいちやうして歩かうとするかも知れない。それは僕でも心得てゐる。