古疵ふるきず)” の例文
親父おやじに巾着切りの古疵ふるきずがあるとも知らぬ清純さ、それを見るのを唯一の楽しみに、彦兵衛は本当に真っ黒になって働き続けたのです。
魚でもさけますと大きなやまめ渓間たにまの鯉は蛇を食べますから鮭や鱒を食べると三年過ぎた古疵ふるきずが再発すると申す位で腫物や疵には大毒です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「胸から腹へかけて、長く続いた細いメスの跡がある、それが変な風にけている。一見古疵ふるきずのようだが、古疵ではない」
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お粂は義理ある妹のおまきにも古疵ふるきずあとを見られるのを気にしてか、すずしそうな単衣ひとえの下に重ねている半襟はんえりをかき合わせることを忘れないような女だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
で、わたくしどもにむかって身上噺みのうえばなしをせいとッしゃるのは、わばかろうじてなおりかけたこころ古疵ふるきずふたたえぐすような、随分ずいぶんむごたらしい仕打しうちなのでございます。
古疵ふるきずなやみを覚えさせまい、とそうやって知らん顔をしてくれるのはまことに嬉しい、難有ありがたいが……それではうらみだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながら、すかして九日のの月影に見れば、一人は田中の中間喧嘩の龜藏、見紛みまごかたなき面部の古疵ふるきず、一人は元召使いの相助なれば、源次郎は二度びっく
矢筈草やはずぐさ』と題しておもひいづるままにおのが身の古疵ふるきずかたりでて筆とる家業なりわいせめふさがばや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『白雲点百韻俳諧』に「火燵こたつにもえてして猫の恋心」ちゅう句に「雪の日ほどにほこる古疵ふるきず」。
男と女との間のそむきあったところへ口を出すほど危険なことは無い。もし其男女の仲が直れば、あとで好く思われる筈は無い、双方の古疵ふるきずを知っているいつの他人であるからである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
右の通り書留かきとめ之有るにき越前守殿吉兵衞に向はれ其方むすめ島は當年何歳なんさいに成やと問るゝに吉兵衞ヘイ同人どうにんは當年廿一歳に相成ますと申ければ越前守殿しからば同人左のまゆの方に古疵ふるきずあとはなかりしやと申さるゝを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それが心の古疵ふるきずに何としみるかよ。
親父に巾着切の古疵ふるきずがあるとも知らぬ清純さ、それを見るのを唯一の樂しみに、彦兵衞は本當に眞つ黒になつて働き續けたのです。
お粂はそれを言って見せたぎり、堅くぢりめんの半襟はんえりをかき合わせ、あだかも一昨年おととし古疵ふるきずあとをおおうかのようにして、店座敷から西の廊下へ通う薄暗い板敷きの方へ行って隠れた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はなれず二人の娘に逢してくれかみもおどろに振亂ふりみだし狂氣の如き形容ありさまに長庵ほとんどあぐみはて捨置すておくときは此女から古疵ふるきずおこらんも知れぬなりどくくはば皿とやら可愛さうだがお安めも殺して仕舞しまほかは無いが如何なる手段で殺してくれん内で殺さば始末しまつが惡し何でも娘兩人に逢してやる誘引出おびきだし人里遠き所にて拂放ぶつぱなすより思案は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「旦那様、これは又大した古疵ふるきず御座ございますが、——さぞ、お若い時分の、勇ましい思い出でも御座いましょう」
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)