利目ききめ)” の例文
だが、追駈おっかけながら刑事の吹き鳴らした呼笛よびこ利目ききめがあった。それを聞きつけた一人の警官が、丁度その時、賊の前面に現われたのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
池辺いけべ君の容体ようだいが突然変ったのは、その日の十時半頃からで、一時は注射の利目ききめが見えるくらい、落ちつきかけたのだそうである。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、どんなに蹴ってみても、どなってみても、なぐってみても、今度はもうパトラッシュには利目ききめがありませんでした。
あるいはまた己れの利益にもとるような事が起って来ると、自分一人で言っても利目ききめがないから平生へいぜい徒党を組んで居るやつが陰に陽に相呼応して
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その目的のために大なる利目ききめのあったのは、延期派の穂積八束氏が「法学新報」第五号に掲げた「民法出デテ忠孝亡ブ」と題した論文であったが
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しかしその怪談の中にはもう話してもらったのもあるし足の疲労の方が勝つものだから、だんだん利目ききめがなくなって来るというような具合であった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もし催促の利目ききめがあって首尾よく年貢が納まるならば、その半分を周旋した武人にやろうと利をもって誘う者もある。
内閣会議にでも出し、それから貴衆両議院で決めて、かなり人の嫌うような職業を重んずるようにする法令でも発布したら、あるいは利目ききめがあるかも知れぬ。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そんなことで、やっと我慢しているが、確かに利目ききめがあるから、一時のごまかしとも違うなんどと、おれはその時強調していい足したことででもあったろう。
白い手術着を着た助手らしい男がしきりにあちこち歩き廻ってそれを助けてくれようとするのだが、一向利目ききめがないので困り果てたところで眼がさめたのだという。
夢判断 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして、再び道路へ出てから、その残りを食い終わった。ずいぶん久しくウォートカを口にしなかったので、たった一杯飲んだだけで、たちまち利目ききめが見えてきた。
「馬に念仏申しても、利目ききめがなさそうでございます。そこでおさらばと致しましょう。もう日も大分だいぶ暮れて来た。ねぐらへ帰ったら夜になろう。ご免下され、ご免下され」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それはパリーの浮浪少年らがフランス式の皮肉を集中した得意の身振りであって、きわめて利目ききめの多いものであることは、既に半世紀も続いてきたのを見てもわかる。
ここの水には、いまどきまったくたいした利目ききめがあるわ。でも、わたしこの温泉を立っていこうとはおもわない。このごろやっと、ここがおもしろくなりかけたのだもの。
金銭に積ってはいくらでもないが、ある方面の神経をじらすにはくっきょうな利目ききめのある仕事だ
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悲しみをこらえて爽快げな見得みえを切りながら古い自作の「新キャンタベリイ」と題する Balladうまおいうた を、六脚韻を踏んだアイオン調で朗吟しはじめたが一向利目ききめがなかった。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
現世の真面目まじめな勤勉が、何らそれに正比例する報いを保証しない。案外に人目を胡麻化ごまかして追従贈賄を行うと利目ききめがある。そのような事実は人心を極度に自棄的にするものである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
はっきりした非難を加えるよりも執拗しつよう諷示ふうしを繰り返すほうが、公衆には利目ききめが多いことを、彼らはよく知っていた。彼らはねこねずみに戯れるように、クリストフをもてあそんでいた。
懐炉かいろだけでは心許こころもとなくて、熱湯を注ぎこんだ大きな徳利とくりを夜具の中へ入れて眠ることにしていたが、ある夜、徳利の利目ききめがなくって真夜中ごろにしばらく忘れていた激しい痛みを感じだした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
するとその利目ききめがとてもよくあらわれて、五千以上の薔薇の花が、もと通り美事に咲き匂いました。しかし、死ぬまでマイダス王に、何でも金にする力を思い出させたものが二つありました。
「それはあなた、そういうたちでらっしゃるからですわ。肥らない質の人間ですと、まああたくしみたように、なにを頂いてもいっこう利目ききめがありませんのよ。あらあなた、お帽子がぐしょ濡れよ。」
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この言葉は幾らか利目ききめがあったらしい。
主人のごとくこんな利目ききめのある薬湯へだるほど這入はいっても少しも功能のない男はやはり醋をかけて火炙ひあぶりにするに限ると思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そりゃまあ殺すのは実に残酷ですけれどお経でもとなえてやったならば幾分かありがたい利目ききめがあるであろうと思われる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何の利目ききめもないのだが、さいわい、徳さんの息子が私と年齢も、背恰好も似寄りだから、その息子に私の洋服を着せ、遠目には私に見える様に仕立てて、本土へ渡すことにしよう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして利目ききめのところを見ていると、グンニャリと来たから、こいつは手答えがあるわいと、それを下へ持って行って西洋流の握手をやる時にまた一両、それで都合つごう二両取り
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そんなものでもございません。総じて女子おなごというものは、恩もうらみも殿方よりは一倍強く感じますゆえ、そんな恐ろしい鞭などで打ち叩かれるより言葉優しく根強くおさとしなされた方が、どんなに利目ききめがございますことか」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したら、月桂寺げっけいじさんは、ええ利目ききめのあるところをちょいとやっておきました、なに猫だからあのくらいで充分浄土へ行かれますとおっしゃったよ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それじゃどうかそう願いたいといってそこへまあ滞在する中に薬の利目ききめか眼の痛みも少しなおって参りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こういうと慢心の利目ききめが即座に現われて、家中が急に混雑をはじめました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俺の身体は死んでも、俺の魂は貴様をやっつけるまでは決して死なないのだからな。なる程、貴様のあの馬鹿馬鹿しい用心は生きた人間には利目ききめがあるだろう。たしかに俺は手も足も出なかった。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
初さんのそばへ腰をおろす。アテシコの利目ききめは、ここで始めて分った。うまい具合に尻が乗って、柔らかに局部へこたえる。かつ冷えないで、結構だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ウフフフフフフ、うまく行ったぞ。眠薬ねむりぐすり利目ききめは恐しいもんだな。だが、食料品積みこみのついでに、こんな可愛い子供が三人とは、悪くない獲物だぞ。これで又一もうけ出来るというもんだ」
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが思うように利目ききめがないと見ると、今度は自分が焦れ出して、なあに、いつか一度はこっちのものにして見せるといった腹でいるところへ、例の間違が持ち上って、とうとう、駒井も、神尾も
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そっと手を廻して真相を探ってみたなどという滑稽こっけいもあった。事実が分って以後は、代助の所謂いわゆる好いた女は、梅子に対して一向利目ききめがなくなった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
烈しい薬物の利目ききめは忽ちであった。さしたる苦悶もなく、何事を云い残すでもなく、この異様な親子は、見る見る蒼ざめて行って、しっかりと抱き合ったまま、いつしか冷いむくろと化していた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから本人の気の持ちよう一つでは、仁参にんじんが御三どんの象徴になって瓢箪ひょうたんが文学士の象徴になっても、ことごとく信心がらのいわしの頭と同じような利目ききめがあります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
バッタの癖に人を驚ろかしやがって、どうするか見ろと、いきなりくくまくらを取って、二三度たたきつけたが、相手が小さ過ぎるから勢よくげつける割に利目ききめがない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貝の利目ききめはたちまちあらわれて、細君はその月から懐妊して、玉のような男子か女子か知りませんが生み落して老人は大満足を表すると云うのが大団円であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人のような汚苦むさくるしい男にこのくらいな影響を与えるなら吾輩にはもう少し利目ききめがあるに相違ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余のごとき平仄ひょうそくもよくわきまえず、韻脚いんきゃくもうろ覚えにしか覚えていないものが何を苦しんで、支那人にだけしか利目ききめのない工夫くふうをあえてしたかと云うと、実は自分にも分らない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いくら出ても何の利目ききめもなかった。女は何喰わぬ顔で大徹和尚だいてつおしょうの額をながめている。やがて
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
癪に障るような身分でもなし、境遇でもないから、いっこう平気ではいたが、これが人間に対する至大の甘言で、勧誘の方法として、もっとも利目ききめのあるものだとは夢にもおもい至らなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし技巧がなければせっかくの思想も、気の毒な事に、さほどな利目ききめが出て来ない。沙翁とデフォーは同じ思想をあらわしたのでありますが、その結果は以上のごとく、大変な相違をきたします。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あんなに、吸殻すいがらをつけてやったが、ごう利目ききめがないかな」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)