冥福めいふく)” の例文
俗世の人が涙で亡き人を送ろうとも、われわれ沙門しゃもんは神に召された法師を喜んでやればよいのじゃ。喜んでその冥福めいふくを祈ればよいのじゃ。
私は、私から大切だいじな恋人を奪った奴を憎んだ。初代の冥福めいふくの為にというよりは、私自身の為に恨んだ。腹の底から、そいつの存在を呪った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
東大寺の大仏開眼かいげんの日からかぞえると七年目、天平てんぴょうもすでに末期の宝字三年、鑑真がんじん聖武しょうむ天皇の御冥福めいふくを祈りつつ草創した寺と伝えられる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
MRミスタ・タチバナ! 私共の太子殿下は……太子殿下は……お果てになりました。もう万事おしまいです! さあどうぞ! 殿下のために冥福めいふく
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
美奈子は、花を供えた後も、じっと蹲まったまゝ、心の中で父母の冥福めいふくを祈っていた。微風が、そよ/\と、向うの杉垣の間から吹いて来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
冥福めいふくを祈らせるか、現福を願わせるようにのみ導いて、宗教がかえって迷信を増長さする手伝いをするありさまである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
羅漢寺建立こんりゅう当時から、多くの信仰者が、親の冥福めいふくを祈るためとか、愛児の死の追善ついぜんのためとか、いろいろ仏匠をもっての関係から寄進したものであって
それを土に埋めて、中に水を入れ、上の白い花の枝を手折ってして、うずくまって、神に死児の冥福めいふくを祈った。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「有難うございます。路用まで澤山頂戴して——もう決して二度と江戸へ出ることぢやございません、巳之松さんの冥福めいふくをお所りして生涯相良で暮します」
これは關東大地震かんとうだいぢしんさい其處そこ生埋いきうづめにされた五十二名ごじゆうにめい不幸ふこうひと冥福めいふくいのるためにてられたものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
人々は心を遠く都へ送って、幾月かを、裏方のために——また、亡き月輪禅閤のために、冥福めいふくを祈って送った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それもそうだな。じゃあ、仕方がない。ここから君たちの冥福めいふくを祈っているよ。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ!」
清明の日には祖先の墓へ行って祖先の冥福めいふくを祈るのが土地の習慣であるし、両親の無い許宣が寺へ往くことはもっとものことであるから、李将仕は機嫌好く承知した。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
(現世に利益、未来に冥福めいふくあれ、)と手にした数珠をんで、別れて帰るその後影を拝んだという……宗匠と、行脚あんぎゃの坊さんと、容子ようすがそっくりだった事も分りますし
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静かに私自身の手で冥福めいふくをお祈りしようと予定しているのですが、これも中途半端はんぱな心でしょうね
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかるにこまったことにこの両親りょうしんは、きつい仏教ぶっきょう信者しんじゃであっため、わがはや極楽浄土ごくらくじょうどけるようにと、あさばんにおきょうげてしきりに冥福めいふくいのってるのじゃ……。
私は、そう分るとぞっと寒気だち、あのゴリラがいなければ死んだかもしれぬと思うと、いま頭に手を置いてのそりのそりと歩いてゆく、墓場への旅人に冥福めいふくの十字をきったのである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一つには、この杉に願いをかければ、いったん夫婦のちぎりを結んで一方の欠けた人々には、この上なき冥福めいふくがあるという——かの門杉は縁を結ぶの杉で、この二本杉は縁の切れた杉である。
先妻やその子供達の写真が飾ってあるのを見せられて好い気持がするはずはないではないか、今は独身でいるのだから、ひそかにそう云うものを飾ってその人達の冥福めいふくを祈る心情は分らなくはないが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
名前ですか? 名前は、——さあ、それは明かしていかどうか、わたしにも判断はつきません。ある男の魂のために、——あるいは「ぽうろ」と云う日本人のために、冥福めいふくを祈ってやりたいのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
泥竜館の違った部屋では、うすらわらいを浮べた死骸を取り囲んで、冥福めいふくをいのり残された身の不幸を悲しんでいる人達が何人かいるのである。私は盃を取り上げた。うっすりとほこりを浮べている。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
僕は、あの恩人たちの、冥福めいふくを祈りたいと思うんだよ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
かれは老婆の冥福めいふくを祈つて長い間読経した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
謹んで兄の冥福めいふくを祈りましょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
女帝の貴き冥福めいふくのために。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
どうしてそなたは子供の冥福めいふくに傷をつけるのじゃ? その子供は生きておるのじゃよ。おお生きておるとも、魂は永久に生きるものじゃもの。
高野山に青巌寺せいがんじを建て、諸国に供養所を興して、亡母の冥福めいふくいのっても、秀吉の心は、なおえなかった。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま中宮寺思惟しゆい像の傍に断片のまま残っている天寿国曼荼羅は、太子の御冥福めいふくを祈って、妃のひとりである多至波奈大郎女たちばなのおおいらつめが侍臣や采女うねめとともに刺繍ししゅうされた繍帳銘である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しかして、神や仏に祈願するのは、冥福めいふくを祈るのではなく、現福を願う目的にほかならぬ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「キンメル提督? ああ神よ、彼の上に冥福めいふくあれ。おい、ヤーネル提督、砲撃方ほうげきかた始め」
凝乎じっこうべを垂れて私は鉄柵越しにこの不思議な懐かしさを湧かせてくれる、しかも見たことも逢ったこともない薄命な天才の冥福めいふくを祈っていたが、何か墓前に花でも手向たむけて上げようかと考えた。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
なき雪子さんの冥福めいふくを祈ることにかかり果てていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、彼らの神仏崇拝は、全く一身一家の冥福めいふくにあらずして現福を祈るのである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
神護寺じんごじ廃毀はいきを修復して、仏法の興隆を喚起し、あわせて父母の冥福めいふくをも祈る、という勧進かんじんをして、都の市民へ呼びかけていたが、一日あるひ、法住寺の法殿に貴紳が多く集まると聞いて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幻も消えてしまえ! 生命はあるんだ! いったいおれはいま生きてないのか? おれの命はあの老いぼればばあと一緒に死にはしなかったんだ! 婆さんには天国の冥福めいふくを祈っておいたら
なお、海野ニセ武官の冥福めいふくを、読者諸君と共に祈り上げる次第であります
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、心から、かれの冥福めいふくを祈った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)