先達せんだって)” の例文
「あの放浪者のっつおは、今、北海道の、十勝の……先達せんだって手紙寄越して、表書きはあんのでがすが。——なんでも線路工夫してる風でがす。」
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
先達せんだって、佐渡殿も云われた通り、この病体では、とても御奉公は覚束おぼつかないようじゃ。ついては、身共もいっそ隠居しようかと思う。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女房の方では少しもそんなことは知らないでいたが、先達せんだってある馬方が、饅頭の借りを払ったとか払わないとかでその女房に口論をしかけて
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ところが先達せんだってひとりで帝劇の芝居を見物にいらしった時、帰りに己がお迎いに行ったので、一緒に丸の内の隍端ほりばたを歩きながら
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女は先達せんだって鎌倉へ行ったとき、ホテルの傍の砂の小高いところに二人矢張りこのようにして日を浴びていた気持を思い出した。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此処こゝに参っている関取は花車重吉はなぐるまじゅうきちという、先達せんだってわたくし古い番附を見ましたが、成程西の二段目の末から二番目に居ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いや、その後にもう一度、五月十日にありました。その時見たのは、つい先達せんだって暇をとった福と云う下女でしてな」
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
実は先達せんだってお君はんの嫁入りのときでしてん。支度の費用や言うてからに、金助はんにお金を御融通しましたのや。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「事によると、先達せんだっての男かも知れません。きっとそうです。……そこから逃げ出たのに相違ありません。」
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
信造が連珠! 可笑しいなと思った途端に、ふと思い出したのは先達せんだっての信造の態度でした。交際嫌いの変り者だというのに、実によくペラ/\とよく喋りました。
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
先達せんだってからちょくちょく盗んだ炭の高こそ多くないが確的あきらかに人目を忍んでひとの物を取ったのは今度が最初はじめてであるから一念其処そこへゆくと今までにない不安を覚えて来る。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
如何どうしても報知新聞の論説が一寸ちょい導火くちびになって居ましょう、その社説の年月を忘れたから先達せんだって箕浦みのうらに面会、昔話をして新聞の事を尋ねて見れば、同人もチャンと覚えて居て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのくせ、田部とは違う男の顔が心に浮ぶ。田部と柴又に行ったあと、終戦直後に、山崎と云う男と一度、柴又へ行った記憶がある。山崎はつい先達せんだって胃の手術で死んでしまった。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
先達せんだって中本誌の余白を借りてデモクラシーに関して一言するところがあった。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「母が一人先達せんだってまで生きて居ましたが、死んでからすぐ私は上京しました」
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
折角の御酒ごしゅも御覧の通り二、三杯いただくと唯うとうとと眠気を催すばかりさ。さすが蜀山先生しょくさんせんせいはうまい事を書いていますよ。先達せんだってさる人から『奴師労之やっこだこ』と申す随筆を借りて見ましたがな……。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこには可愛いめいおいたちもいれば、また私の落ちつくだけの広い幾つかの座敷もあり、先達せんだって中からたびたび逗子の生活を切り上げて東京へ戻って来るようにとのすすめが来ているのであったから
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
つい先達せんだってまで、寛永寺畔一帯にみだれ咲いていた桜は、もはや名残もなく散り果てて、岡のべの新緑は斜めに差すあざやかな光に、物なやましく映え渡り、の間がくれに輝やいている大僧坊の金碧こんぺき
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
米斎君としてはこれが最後だったわけで、先達せんだっても奥さんが御見えになった時、丁度私のものが最後になって、かなり久しい御馴染おなじみでしたが、やはり御縁があったんでしょうと申上げたような次第です。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おう、——おお、先達せんだっての若いのだな。……早くこっちへ入れ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は先達せんだって子爵と会った時に、紹介の労をった私の友人が、「この男は小説家ですから、何か面白い話があった時には、聞かせてやって下さい。」
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのモスリンは先達せんだってのお盆に買ってやったので、彼女はそれを留守の間に、自分の家で仕立てて貰って着ていたのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きん「どうも先達せんだっては有難うございます、貴方、あんな心配をなすっては困りますよ、お忙がしい処をお呼立て申しましたのは困った事が出来ましてね」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そら先達せんだって東京から帰って来た奥野さんに習った。しかしまだ習いたてだから何にも書けない。」
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私が先達せんだって来の不愉快を忘れるほどの愛に燃え上って、彼を抱こうとして、我を忘れて着て居たものも脱ぎすてて腕をひろげたのに、私のためにと云う自分の満足のために
何でもないことです。——先達せんだってあたしがこちらへ渡ってくる途中でね、鴎が一匹、小さな枝切れへとまって、波の上をふわりふわりしていたんですの。ちょうど学校なぞにある標本を
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そこから多量に瓦斯ガスが出だして、あまりたくさんに出るままにタンクを据えつけて、今でもそれで台所の煮焼から風呂場まで使ってそれでもまだ余るほどであるという事や、つい先達せんだって
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
大橋さん、くお聞きなさい。先達せんだってこれを有馬から買おうと云うときに、何と貴方は約束なすったか、只十二月の廿五日すなわち今日、金を渡そう、受取ろうと、ソレよりほかに何にも約束はなかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
先達せんだっても五六本の色鉛筆を携えて居るから、妙だと思って母親が尋ねると、此れは学校の誰さんに貰ったのだと云う。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、仕方なしに答えましたが、此の答はもとよりよろしくない様でございますが、何分無いとも有るとも定めはつきません。先達せんだってある博識ものしり先生に聞きますと
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あなたが、先達せんだって中の手紙に、よく一応は判るが、とユリの手紙に答えていらした、その気持。
先達せんだってあの勾玉まがたまを御預りしましたが——」と、ためらい勝ちに切り出した。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ありていに云うと国経は、先達せんだってから左大臣の測り知られぬ温情に対して何がな報いる道はないだろうかと、寝てもめてもそのことを気にけていた矢先であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はい、あの、粂之助はわたくしどもに長らく勤めて居ったものですが、少し理由わけがありまして先達せんだっていとま
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「私は、先達せんだってから、佃さんと私のことについて、御心配いただいていることは知っておりました。……いつぞや私をお呼びになったのも、そのことに関係がありましたのでしょう?」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
(僕は突然K君の夫人に「先達せんだってはつい御挨拶もしませんで」と言われ、当惑したことを覚えている)それからもう故人になった或隻脚かたあしの飜訳家もやはり銀座の或煙草屋に第二の僕を見かけていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先達せんだってからの一方ならぬあなたの御尽力に対しまして、御納得の行くような理由を挙げてお断りせんことには、僕等として気が済まんように存じましたものですから、………
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何うも私は武骨者で困ります、段々とお世話様に相成り何共なにともお礼の申し上げようが有りません、先達せんだっては又出来もせんものに、前以まえもってお給金を頂戴致し、中々今からお手間などを
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先達せんだって、『新小説』をよみ、あの近藤栄一氏のスサノオノ命に、何だかくっきり、あの時代の雰囲気があらわれて居ずいやだったので、自分はすっかり、まざまざとペルシアの気分を獲得したのち
先達せんだっては、あれからすぐに御帰りになって。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
モウ好イ加減キマリガツイタ時分ダト思ッテイタノニ、先達せんだって淡路カラ絵端書ヲ貰ッテマダソンナコトカト驚イタ次第デス。ダカラ今度ノアナタノオ手紙デハ驚キマセン。………
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
先達せんだっても福地先生から承わりましたが、大宝令たいほうりょうとか申しまして、文武もんぶ天皇さま時分に法則も立ちまして、切物きれもの仮令たとえ鋏でも小刀でも刀でも、わが銘を打つ事に致せという処の法令で、是だけは
先達せんだって鶴子ちゃんが泊りに来ていた間に相談すべきであったのだけれども、休養させて貰いに来て、そう云う肩の凝る話を持ち出したくなかったので、何も云わないでしまったから
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と云われた時は原父子おやこびっくりして、それでは先達せんだっての艶書を太左衞門がとうに焼捨てた事と心得ていたが、取ってあったか、あゝ困ったものだと思っていると、丹三郎は血気の壮者わかものですから心がはやって
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、その後先方から何の挨拶も来なかったので、気がないものと思っていたところ、此方の書面に基づいて内々調査を進めていたものと見えて、それから二箇月程立って、先達せんだって返書が来た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)