いつはり)” の例文
旧字:
いつはりも似つきてぞする」は、偽をいうにも幾らか事実に似ているようにすべきだ、余り出鱈目でたらめの偽では困る、というようなことを
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
自分の真実の血で、彼女のいつはりの贈物を、真赤に染めてやるのだ。そして、彼女の僅に残つてゐる良心を、はづかしめてやるのだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何方どつちかにしなければ生活の意義を失つたものとひとしいと考へた。其他のあらゆる中途半端ちうとはんぱの方法は、いつはりはじまつて、いつはりおはるよりほかに道はない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
唐津藩にもたらし賜はらば藩公の御喜びあるべく、此文のいつはりならざる旨も亦明らかなるべしと思ひはかりてなせし事なり。歌のつたなきを笑ひ給ふ事なかれ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
聞いて居る丑松には其心情のいつはりが読め過ぎるほど読めて、しまひには其処に腰掛けても居られないやうになつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼はそのいつはりまこととを思ふにいとまあらずして、遣る方も無き憂身うきみの憂きを、こひねがはくば跡も留めず語りてつくさんと、弱りし心は雨の柳の、漸く風に揺れたるいさみして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ヴアイオレツトのかほり嬌紅けうこう艶紫えんしの衣の色、指環ゆびわ腕環うでわの金玉の光、美人(と云はむはいつはりなるべし、余は不幸にして唯一人も美人をば夜会の席に見る能はざりければ)
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
将来どんな境遇になっても友情に変りはないと云っているけれども「親密々々こはこれ何のことの葉ぞや」「いつはりのなきなりせばいかばかりこの人々の言の葉うれしからん」
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
なれどもおん顔の色は青ざめお声もやや震へ居られ候間、もとよりこれはおんいつはりと存じ上げ候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まのあたりなるさへいつはりおほき四九世説よがたりなるを、まして五〇しら雲の八重に隔たりし国なれば、心も心ならず、八月はづきのはじめみやこをたち出でて、五一岐曾きそ真坂みさかを日くらしにえけるに
まことなき心はことにあらはれぬ命かけてもいつはりはせじ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
はれ、いつはりの底が善う見える。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
知らぬいつはりいうて見た。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
僕等は赤彦君のまへにいつはりを言ひ、心に暗愁のわだかまりを持つて柹蔭しいん山房を辞した。旅舎やどに著いて、夕餐ゆふさんを食し、そして一先づ銘々帰家きかすることにめた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
黄金の力のためにいつはりの結婚をしたときも、美しき妖婦として、群がる男性を飜弄してゐたときにも、彼女の心の底深く、初恋の男性に対する美しき操は
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
病のある身ほど、人の情のまこといつはりとを烈しく感ずるものは無い。心にも無いことを言つて慰めて呉れる健康たつしや幸福者しあはせものの多い中に、斯ういふ人々ばかりで取囲とりまかれる蓮太郎のうれしさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
例の如く連帯者の記名調印を要すればとて、仮に可然しかるべき親族知己しるべなどの名義を私用して、在合ふ印章をさしめ、もとより懇意上の内約なればそのいつはりなるをとがめず、と手軽に持掛けて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
善くか、悪くかは、場合場合でちがふがね。え、いつはりまことに代へるおそれがある? 冗談じようだん云つちやあいけない。甲が乙に対して持つてゐる考へに、真偽しんぎの別なんぞ、あり得ないぢやあないか。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
純真な男性の感情を弄ぶことが、どんなに危険であるかを、彼女に思ひ知らせてやるために。さうだ、自分の真実の血で、彼女のいつはりの贈物を、真赤に染めてやるのだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いつはりつきてぞする何時いつよりかひとふにひとしにせし 〔巻十一・二五七二〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
宮がつつめる秘密は知る者もあらず、みづからも絶えてあやしまるべき穂をあらはさざりければ、その夫につかへて捗々はかばかしからぬいつはりも偽とは為られず、かへりて人にあはれまるるなんど、その身には量無はかりなさいはひくる心の内に
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)