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俯
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うつ
ふりがな文庫
“
俯
(
うつ
)” の例文
こんどは少し大声で呼ぶと、何と感づいたかN君は、何か落し物でもしたように、
足許
(
あしもと
)
へ顔を
俯
(
うつ
)
むけてグルグル舞いをするのである。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
彼は口腔内にも光があるのを確かめてから、死体を
俯
(
うつ
)
向けて、背に現われている鮮紅色の屍斑を目がけ、グサリと
小刀
(
ナイフ
)
の刃を入れた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
成信は顔を
俯
(
うつ
)
むけた。表情の変るのをみられたくなかったのである。伝九郎はまるで気がつかず、にやにやしながら面白そうに云った。
泥棒と若殿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
嚔
(
くしゃみ
)
の
出損
(
でそこな
)
った顔をしたが、
半間
(
はんま
)
に手を留めて、
腸
(
はらわた
)
のごとく
手拭
(
てぬぐい
)
を手繰り出して、
蝦蟇口
(
がまぐち
)
の紐に
搦
(
から
)
むので、よじって
俯
(
うつ
)
むけに額を
拭
(
ふ
)
いた。
怨霊借用
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
我れも一人もちたる子に苦勞したりし佐助が、人事ならず氣づかはしさに叱りつけて坐らすれば、男は又もや首うなだれて
俯
(
うつ
)
ぶく
暗夜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
▼ もっと見る
女中のお安さんは、多い髪のハイカラな巻きかたに、黄色い厚い留櫛を見せて、向うのテイブルに
俯
(
うつ
)
ぶした
儘
(
まゝ
)
、正体もなく居眠をしてゐる。
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
そうして、森のほうにつづいた
畦道
(
あぜみち
)
を僕は独りで
辿
(
たど
)
って行った。考えごとをつづけながら。時おり、その
俯
(
うつ
)
むいた首を悲しげに振りながら。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
凝
(
じっ
)
と、首をたれて、お市は
俯
(
うつ
)
向きこんでいたが、もう女の特有な度胸がすっかりすわったように、言葉のふるえも消えて
夕顔の門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
人が起すとちょっと面を揚げ、眼を
瞬
(
またた
)
きしまた
俯
(
うつ
)
ぶき睡る。惟うに日本の猴も同様でこれを猿子眠りというのだろ。
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
その青年に、つい目と鼻の位置に
坐
(
すわ
)
られると、美奈子は顔を
赧
(
あから
)
めて、じっと
俯
(
うつ
)
むいてしまう女だった。が、心の
裡
(
うち
)
では思った、何と
云
(
い
)
う不思議な
偶然
(
チャンス
)
だろう。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
そして少年の手を受取ると、
俯
(
うつ
)
むき加減につくづくとこの珍らしい来客に見入った。それは悲しい柔和な眼つきだったが、好意といっては少しも感じられなかった。
艸木虫魚
(新字新仮名)
/
薄田泣菫
(著)
その傍には、下を
俯
(
うつ
)
むいている連れの若い女さえも、前回とは寸分たがわぬ登場人物だった。
不思議なる空間断層
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
其
(
その
)
儘じつと南は
俯
(
うつ
)
向いて居て、細い指だけは火鉢の上へかざされた。この無言の中へ夏子の
入
(
はい
)
つて来たのを鏡子は嬉しくなく思つた。英也も来て南に初対面の挨拶をして居た。
帰つてから
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
最初の犠牲者は
本所猿江
(
ほんじょさるえ
)
の金持の隠居で、
新湊稲荷
(
しんみなといなり
)
のまえに
俯
(
うつ
)
ぶせに倒れていた。
門跡様
(
もんせきさま
)
からの帰りであった。二十両余りの金を懐中にしていたが、それもそのまま残っていた。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
佐野は始終
俯
(
うつ
)
むきがちで、モンテカルロに着くまで殆ど誰とも言葉を交しませんでした。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
第二の世界に動く人の影を見ると、大抵
不
(
ぶ
)
精な
髭
(
ひげ
)
を
生
(
は
)
やしてゐる。あるものは
空
(
そら
)
を見て
歩
(
ある
)
いてゐる。あるものは
俯
(
うつ
)
向いて
歩
(
ある
)
いてゐる。
服装
(
なり
)
は必ず
穢
(
きた
)
ない。
生計
(
くらし
)
は屹度貧乏である。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
智恵子は
眤
(
じつ
)
と
俯
(
うつ
)
むいて、出来る丈男の言ふ事を解さうと努めながら歩いてゐた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
お鶴は口惜しさも涙も隱さうともせず、
俯
(
うつ
)
向いて前掛に顏を埋めるのです。
銭形平次捕物控:117 雪の夜
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
藻の
門
(
かど
)
の柿の梢がようように眼にはいったと思う頃に、彼は陶器師の翁に逢った。翁は野菊の枝を手に持って、寂しそうに
俯
(
うつ
)
向き勝ちに歩いていた。ふたりは田圃路のまん中で向かい合った。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
はや秋深く
俯
(
うつ
)
むく豆畑の麦稈帽子の
縁
(
つば
)
の痛さよ
雲母集
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
お初は、もじもじするように、
俯
(
うつ
)
むいて
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
親爺
(
おやじ
)
似の白い
頬
(
ほお
)
の上に小さくきれた眼が傷ましいほどオドオドし、瞬間のうちに紅潮していったが、重たそうな頭髪をだんだん
俯
(
うつ
)
むけてしまった。——
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
ただ
俯
(
うつ
)
むいて、片手に師の笠を離さず、片手を曲げて顔から離さず、じっと、いつまでも、肩をふるわせていた。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
じつとしてゐよ、かもふものか蒲團ぐらゐ、もう吐きたくはないか、いゝのか、と言つたきり、自分も涙ぐんで、おふさの
俯
(
うつ
)
伏した背中を抱くやうにしてゐた。
金魚
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
時に、さすがに、
娘気
(
むすめぎ
)
の
慇懃心
(
いんぎんごころ
)
か、あらためて呼ばれたので、
頬被
(
ほおかぶ
)
りした
手拭
(
てぬぐい
)
を取つて、
俯
(
うつ
)
むいた。
光籃
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
膝
(
ひざ
)
の上で両手の指を組み合せ、固く絞るようにしながら、顔は
俯
(
うつ
)
むけたままで、静かに続けた。
雨の山吹
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
キャラコさんは、閉口して
俯
(
うつ
)
向いてしまった。
キャラコさん:07 海の刷画
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
椅子
(
いす
)
の上に少しさし
俯
(
うつ
)
向き
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
もう出かけたのか知らと、息休め旁下りて見ると、一つしかない不斷着の帶を、着換へたネルの着物の上に結んだおふさは、小暗い三疊の鏡臺の前に
俯
(
うつ
)
伏して泣いてゐる。
金魚
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
鷲尾は父親のおこられてでもいるようにしだいに
俯
(
うつ
)
むく顔をのぞきながら
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
下駄を切らして
俯
(
うつ
)
向いた
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
じつと
俯
(
うつ
)
向く
薔薇
(
ばら
)
の花。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
俯
漢検1級
部首:⼈
10画
“俯”を含む語句
俯伏
俯向
俯臥
真俯向
俯瞰
差俯向
突俯
俯仰
真俯伏
打俯
下俯
内俯
俯目
差俯
俯居
俯視
眞俯向
俯仰天地
俯向形
俯向加減
...