きす)” の例文
新郎の母者人が「ドウカお吸物すいものを」との挨拶あいさつが無い前に、勝手に吸物すいものわんの蓋をとって、きすのムスビは残して松蕈まつだけとミツバばかり食った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
明けがたには、ひとさかぼらが釣れる。すこし陽が出てからは、きす釣り舟が、笹の葉をいたように、釣竿をならべて、糸をあげていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の前、きすの時に、僕の品匡しなばこを忘れられて、腹が立って立って堪らんから、そのまま漕ぎ戻らせて仕舞ったこと有ったが。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
先日も料理試験のため妹と一所にる西洋料理屋へ行った時きすのフライが出たから給仕に箸を一膳ずつ貸してくれといったら妙な顔をしていた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僧都 真鯛まだい大小八千枚。ぶりまぐろ、ともに二万びきかつお真那鰹まながつおおのおの一万本。大比目魚おおひらめ五千枚。きす魴鮄ほうぼうこち鰷身魚あいなめ目張魚めばる藻魚もうお、合せて七百かご
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其うちの二人ふたりは熊本の高等学校の教師で、其二人ふたりのうちの一人ひとりは運わる脊虫せむしであつた。女では宣教師を一人ひとり知つてゐる。随分とんがつた顔で、きす又はかますに類してゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鮎、鯉、きすなどの専門の竿が出来る。秋田糸や人造テグスの発明、沈子おもりの改良、毛バリの創作といつた風に、だんだんと明治の釣りから大正昭和の釣りは変つて来た。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
「石川屋の主人を怨む者なんかありやしません。若しあつたとしたら、小名木をなぎ川のきす位のもので」
むかし釣好きの江戸つ児がきすを釣りに品川沖へ出た。ちやうど鱚釣に打つてつけの日和で、獲物も大分だいぶんあつたので、船のなかで持つて来た酒など取り出して少し飲んだ。
そら、お前さんがぼらを一尾、きすを二尾、そうだ鰹の小さいのを一尾、取りに来たでしょう。こちらから届けますというのに、いや急ぐからと云ってお前さんがすぐに持って行ったでしょう
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかかくも金を稼がねばならぬからな。今日も一日雨だった、少し肌寒い位だ、今は十時である、裏のごったく屋では今まで東京からきす釣りに来た客共が騒いでいた。併しもうしずまっている。
くちよければ仕入しいれあたらしく新田につた苗字めうじそのまゝ暖簾のれんにそめて帳場格子ちやうばがうしにやにさがるあるじの運平うんぺい不惑ふわくといふ四十男しじふをとこあかがほにしてほねたくましきは薄醤油うすじやうゆきすかれひそだちてのせちがらさなめこゝろみぬわたりの旦那だんなかぶとはおぼえざりけり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きすも、メロンも
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きす脚立きゃたつ釣りといふのをやる。海中の浅瀬に脚立を立てて、その上に一人宛乗つて黎明の潮の中を釣る。乗込み鮒は野外散歩で足で釣ると云はれピクニツクの好伴侶だ。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
甘鯛、いとより鯛、魴鮄ほうぼうの濡れて艶々つやつやしたのに、青い魚が入交って、きす飴色あめいろが黄に目立つ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちの二人は熊本の高等学校の教師で、その二人のうちの一人は運悪くせむしであった。女では宣教師を一人知っている。ずいぶんとんがった顔で、きすまたはかますに類していた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こいは、「三日に一本」と、相場の極ツてる通り、あぶれることも多いし、きす小鱸せいご黒鯛かいず小鰡いな、何れも、餌つきの期間が短いとか、合せが六ヶむつかしいとか、船で無ければやれないとか
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
青竹の籠にきすと野菜をあしらった物を、台所へ送り届けた町人がある。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後に主人の彼が引受け、以前相模の海できすを釣った手心で、錨索いかりなわをとった。偖熱心に錨を上げたり下げたりしたが、時々はコトリと手答はあっても、錨の四本の足の其何れにも柄杓はかゝらない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「頭をやすめにいって来る、もうきすが出ているかもしれない」
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夏の匂ひのする、夏の光りのある、夏の形体をもつてゐる魚——といつたら、すぐ鮎だ、きすだ、たいすずきだ。夏ほど魚が魚らしく、清奇で、輝いて溌剌としてゐる時はない。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
きすを釣りに行かないか」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し鮎はどうしても金がかかるから、暇を惜む時は海のきすで我慢をする。鱚は海の鮎、浅瀬の三日月だと謂はれてゐる。白鱚は藤色の白銀、青鱚は緑光の白銀色をもつてゐる。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
キスも同じであるが、然しこの方がしおも深いし柔かく、又一種委曲なところがある。イワナは他の海魚のやうに貪婪にぐいと来るし、ヤマメもきすに似て少しく遅鈍な感覚である。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
うなぎなまずどじょう、ハゼ、イナ、などが釣れ、海では、鯛、すずきこちかれいあじきす烏賊いかたこ、カサゴ、アイナメ、ソイ、平目、小松魚、サバ、ボラ、メナダ、太刀魚たちうお、ベラ、イシモチ、その他所によつて
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)