颶風はやて)” の例文
悪い奴が来ていると思いながら、わざと素知らぬ顔をしていると、午すぎになって彼は「颶風はやてが来る、潮が来る」と叫んであるいた。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
颶風はやてぎる警告けいこくのために、一人いちにんけまはつた警官けいくわんも、外套ぐわいたうなしにほねまでぐしよれにとほつて——夜警やけい小屋こやで、あまりのこと
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ沙漠のすなけてゐるやうに、頭がほてツてゐるばかりだ。そして何時颶風はやてが起ツて、此の體も魂もうづめられてしまうか知れないんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「お玉坊がブラブラ病とは不思議だね。実はこちらでも若殿がブラブラ病。ブラとブラとの鉢合せでは提灯屋ちょうちんやの店へ颶風はやてが吹込んだ様なものだ」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
飯はべてよ…お母様っかさんには釣に出て颶風はやてをくったなどと云うとおっかさんが案じるから云うなよ、西浦賀の江戸屋で御馳走になって泊っているが、明日あしたは早く帰ります
「あれはいくさの始まつた時に隊に這入つた。ストニイ、ポイントの進撃の時に死んだといふ人もあるし、又たアントニイス、ノオスの颶風はやてに逢うて溺れたといふ人もある。何しろ帰つては来ない。」
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
海のせこ颶風はやて
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
こう煎じつめてみると別に変った人間でもないんですが、ただ不思議なのは潮干狩の日に颶風はやての来るのを前以って知っていたことです。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
がかりなくもは、くろかげで、晴天せいてんにむら/\といたとおもふと、颶風はやてだ。貴女あなた。……だれもおばあさんの御馬前ごばぜん討死うちじにする約束やくそくかねいらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山「憫然かわいそうに、己も颶風はやてと知って居れば来やアしない、騒いではいかんよ、二里も沖へ出て居るから足掻あがいてもいかんよ、騒いでも仕方がない、まア気をしっかり船につかまって居な」
みちすがら、遠州なだは、荒海あらうみも、颶風はやても、大雨おおあめも、真の暗夜やみよ大暴風雨おおあらし。洗いもぬぐいもしませずに、血ぬられた御矢はきよまってござる。そのままにお指料さしりょう
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところで、その年の夏は先ず無事に済んでいたのですが、どういう陽気の加減か、その年は十月の末に颶風はやてのような風がふき出して、石ころのような大きい雹が雨まじりに降る。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山「急ぐって急がねえって、あゝ悪い時に連れて来たな、あんまり日並がすぎたから怪しいとは思ったが、何うも天気を見損みそくなった、仕方がねえ、気を大丈夫に持って呉れ、師匠颶風はやてだよ」
やがて廓の颶風はやてがここへ舞い込んで来て、それからいろいろの渦を巻き起すことはありありと眼に見えているので、お時は毎朝の空を眺めて、きょうが其の破滅の悪日あくびではないかと
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふね大丈夫だいぢやうぶしんじたらつてる、うへでは甚麽どんな颶風はやてようが、ふねしづまうが、からだおぼれようが、なに、大丈夫だいぢやうぶだとおもつてござれば、ちつともおどろくことはない。こりやよしんでも生返いきかへる。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
数千の葉が庭ぐるみ皆そよいだ。颶風はやて落来おちくと目がくらみ、頭髪ずはつが乱れた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
颶風はやてがくる。天狗が雲に乗ってくる」
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みだらだの、風儀を乱すの、恥をさらすのといって、どうする気だろう。浪で洗えますか、火で焼けますか、地震だって壊せやしない。天をおおい地にみなぎる、といった処で、颶風はやてがあれば消えるだろう。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋葉の旦那だんな、つむじが曲つた。颶風はやての如く、御坊ごぼうの羽黒と気脈を通じて、またゝくの今度のもよおし拙道せつどうは即ちおおせをうけて、都鳥の使者が浜松の本陣へ着いたところを、風呂にも入れず、縁側から引攫ひっさらつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)