たか)” の例文
婦人の方は、先方で請出すと云ふのなら、此方こつちでも請出すまでの事。さうして、貴方の引負ひきおひ若干いくらばかりのたかに成るのですか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は、それがうれしいのだ。炭薪の消費も、一年間のたか、半分以下に減って来たが——そんな数字よりは欣しいのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「扇箱一つで、殿中引廻し、か。虫のいい! これ、進物のたかをいうのではない。が、ものには順があるぞ、順が。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
密室から出たお金と債券は大変なたかでしたが、それよりも松井博士の研究しかけていた発明の方が大事なものでした。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
比田ひだが月々もらうものを満足に持って帰ったためしのない事や、俸給の少ない割に交際費のる事や、宿直が多いので弁当代だけでも随分のたかのぼる事や
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち代々の土人酋長が部下を従え海を越え、他国に向かって侵略し、奪い取ったところの貨幣珍器が、莫大もないたかとなって隠されてある筈でございます。
わしが、おまえを東国へ思い捨てた歳からいま娘になるまでの歳月を数えてみるのに、いくら山の神々の歳月は人間の歳月と違うにしろ、数えてたかが知れている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
或いは金箱をかなり多く、何万というほどのたかを積んで来たものだろうという説もあります。また、それは金子きんすではなく、火薬のたぐいだろうという説もありました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
せっせと臍繰へそくりを貯めこんでいたので、こんな楽しいことはないなどといっていたのは、月々殖えていく、貯金帳のたかのことだったのだと、最近になって、やっと理解した。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それにおらも心にかけて、此の畠や田地をわれがに譲ってもたかが知れてるから、めて金でも遣るべえと思って、己が身の上ではえらく貯めた積りだが、父様の脇差も汝より他に譲るものはねえ
鎮守ちんじゅの八幡宮の茅葺かやぶきの古い社殿は街道から見えるところにあった。華表とりいのかたわらには社殿修繕の寄付金の姓名とたかとが古く新しく並べて書いてある。周囲しゅういけやきの大木にはもう新芽がきざし始めた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この春に京都から越前えちぜんまで廻って秋はまた信濃しなのの方へ出向くなどの計画もあった。そのたんびに寺へ寄附する金のたかも少くなかった。お庄は時々、そんな内幕のことを、年増の女中から聴かされた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かなりのたかの円札や銀銅貨を叮嚀に数えて胴巻に入れた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
じつを云ふと、二百円は代助に取つて中途半端ちうとはんぱたかであつた。是丈これだけ呉れるなら、一層いつそ思ひ切つて、此方こつち強請ねだつた通りにして、満足を買へばいゝにと云ふ気もた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は父上様から骨折賃に頂いたお金、盗んだたかの十の一つは——みんな御用聞の家へほうり込みました。
豪気なたかだ——金座方でもなければ手にすることもなさそうなきたての小判で、ざっと五百両!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「昨年よりは、お納めのたかが減りましたので、今日、御検地の山の分で、左様になりますわけで」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世間の噂では持山の穴蔵あなぐらの中へ、先祖代々積み隠しておく金銀は莫大ばくだいとのこと、お上お調べのたかはいま申す通り古金二千両、新金千両、別に一分の太鼓判たいこばん若干とのことなれば
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お賽銭のたかも多かろうが、私の方の守本尊、孕石様のご利益りやくと来たら、ずいぶん昔から云いはやされ、試しの尽くされたあげくゆえ、今では一向信者もなく、自然お賽銭も上がらぬ始末に
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おまえさん恰好の娘さんの一人歩きには丁度いゝたかだね。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「はあ、さうしてたか若干どれほどなのですか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「要らないと言うお金をうんと貸して、十年も放っておいた上、利息に利息を付け、とても払えそうもないたかを、三四年前になって不意に払えと言い出したのです」
私のっている狭い交際の方面で安全な金を工面した方が私には心持が好いのですから、まずそっちの方を一つあたって見ましょう。無論御入用おいりようだけのたかは駄目です。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「百姓は近年、なみなみならぬ困りようでございますが、穀種をから借り受けて、ようやく植えつけをすまし、本面ほんづらたかを手ずから作る者は、いたってすくないとのことです」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ものの半年と経たないうちに参詣人さんけいにんの数は減り、賽銭のたかもずんと減ったが、それでもここから立ち退かないのは、諏訪明神のお力によって、自然と頭の下がるような立派な大盗に巡り合い
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これさえあれば当座の活路、というだけの分別はあって、何をするにも先立つは金、という観念から、それを恋の次のいのちとして後生大事に持って逃げ出した、たかは、百両とか、二百両とか
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の一生涯でも思い切った気前の一つとなるであろう程なたかである。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「要らないと言ふお金をうんと貸して、十年も放つて置いた上、利息に利息を附け、とても拂へさうも無いたかを、三四年前になつて不意に拂へと言ひ出したのです」
実を云うと、二百円は代助に取って中途半端なたかであった。これだけくれるなら、一層いっそ思い切って、此方こっち強請ねだった通りにして、満足を買えばいいにと云う気も出た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不知火銭……おおぜいへ撒くんだから、もとより一包みの銭のたかは知れたものだが、これを手に入れれば、何よりもひとつの記念品スーベニイルで、そのうえ、を払い、福を招くと言われた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少ないたかではなかった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与次郎のくしたかねは、たかで弐拾円、但しひとのものである。去年広田先生が此前このまへいへを借りる時分に、三ヶ月の敷金しききんに窮して、りない所を一時野々宮さんから用つてもらつた事がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一番進物のたかのすくない藩へ、この、人のいやがる日光下役をおとしてやろうと、今、全部の藩公からつけとどけのあつまるのを待って、きょうあたりボツボツ締め切ろうかと思っていたところだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「この金は、八口で、大したたかだ。この金高に覺えはないか」
与次郎のなくした金は、たかで二十円、ただし人のものである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)