面罵めんば)” の例文
さんざん面罵めんばしぬいた揚句あげくに、ヨハンは大声で笑いましたが、ふと馳けた足音に外を見ると、もう二官の姿はそこを去っていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその亡霊に思う存分の面罵めんばをして腹一杯呶鳴どなりつけて打って打って打ちえてやらなければ気の静まらぬような気持であった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
当人を前において面罵めんばするような激昂げきこうした口調でしゃべり、最後に、「実際私でも、あんな奴はぶち殺してやりたいほどしゃくにさわっていました」
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それ故公も時に道阿弥の存在をのろい、しば/\彼を面罵めんばし、打擲ちょうちゃくし、寧ろ斬り捨てるにかずと決心して、白刃を擬したことも一再ではないらしい。
私は狂っていたのです。あなたに面罵めんばせられて、はじめて私は、正気になりました。自分の馬鹿を知りました。
水仙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、たてつづけに面罵めんばを浴びせかけ、そのまま踵を返すと、大股で部屋を横ぎつて出て行つてしまつた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
夏の沖に立つ綿雲わたぐもの峰のように疑念が、あとからあとからと胸にひろがってはてはどうしても事実としか思えなくなったお艶、栄三郎と弥生を据え置いて面罵めんば
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だが、こうして、ころがり込んでみると、それをひっとらえて面罵めんばをこころみたり、たたき出したりするような気になれないことが、自分の弱味だと思わないでもない。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、むち打たれた。それを含んでこの挙に出たのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのまえにもしふたしなみなようすでもあったら、容赦なく面罵めんばしてやるつもりでさえいた。しかし二人の態度はいつまでも変らず、松助の眼にもすがすがしくみえるようになった。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あとで聞くと、あなたは、その夜映画説明をしたB選手に醜聞スキャンダルの件で、面罵めんばされたのだといいます。ぼくがそばに居合せたらおそらく、身体のふるえるいきどおりに気がくるいそうだったことでしょう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大総督は、ハヤブサを面罵めんばした。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
面罵めんば
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
村重様が中国から信忠卿にいて帰るや否、安土へ召されて、信長公から烈しいご叱責しっせきをうけたとか面罵めんばされたとかいうことです。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも優柔で意気地なしの私が、いかに憤激していたとは云えあの恐ろしい女神に向って、どうしてあれほどの面罵めんばを浴びせ、手を振り上げることが出来たか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とうとう僕は、或る夜、トヨ公で酔っぱらい作家の笠井健一郎氏に面罵めんばせられました。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この私の傾向は、多くの学友たちの顰蹙ひんしゅくを買つたに相違ない。中でも或る友人は、私を『軽い』といふ学校仲間の術語で面罵めんばして、その下宿の二階で私に向つて懇々と感激的な忠告をしてくれた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
いつかさる老職に面罵めんばされるのを見たなどと証言する者もあった。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
林冲はののしりつづける。その面罵めんばに、王倫はぶるぶる五体をふるわせ、地だんだを踏み鳴らしたが、足掻あがきも、前へは踏み出せない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬鹿と面罵めんばするより他に仕様のなかった男、エリオットの、文学論集をわざと骨折って読み、伊東静雄の詩集、「わがひとに与ふる哀歌。」を保田与重郎が送ってくれ、わがひととは
私はこんな面罵めんばを相手に加へかねなかつたらうと思ふ
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
すると坂本八郎左、まっ赤になった、まっ赤になりおって、かように面罵めんばされては男の道が立たぬ、と申した、そうか、とおれは云った、そうか、男の道が立たぬか、それなら男の道の立つようにしてやろう、とおれは云った、まず場所と時刻を
おまけに非常な大酒家で、平常、何か気に入らないことがあると、部下の役人であろうと士卒であろうと、すぐ面罵めんばして鞭打つ癖があった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すこぶる泥臭い面罵めんばの言葉が、とめどなく、いくらでも、つぎつぎと胸に浮び、われながらあまり上品では無いと思いながら、憤怒の念がつのるばかりで、いよいよひとりで興奮し、おしまいには
家庭の幸福 (新字新仮名) / 太宰治(著)
八方から口汚い罵倒ばとう暴風あらしだった。百姓も云う、町人もわめく、女や洟垂はなたらしの子供までが、面罵めんばを浴びせかけて、云わして置けばりがない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長に面罵めんばされ、饗応きょうおうの役を褫奪ちだつされ、憤然、安土あづちを去って、居城亀山へ去る途中、幾日もここに留まって、悶々もんもん、迷いの岐路きろに立ったものだが——
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬岱は孔明に呼びつけられて、面罵めんばされた。その上、ころもをはがれ、じょう五十の刑をうけて、その職も一軍の大将から、一組の小頭に落されてしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
というわけで、石秀が男女ふたりを見る目もちがっていた。そしてまた、義兄あにの楊雄の身にもならずにいられない。業腹ごうはらが煮えてくる。面罵めんばしてやりたくなる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位卿に面罵めんばされて足蹴あしげにまであった上、女の死体を抱えて、安治川屋敷を放逐ほうちくされた侍らしくない侍。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不道の臣に面罵めんばされて、身をふるわせた伊那丸は、やにわに、ガバとはねおきるがはやいか、両手をばくされたまま、梅雪に飛びかかって、ドンと、かれを床几しょうぎからとばした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど武蔵は、堂衆たちの面罵めんばに対して、とうとう、それを一言もいわずにしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鎌倉に監禁されている間、一夕酒の座にはべらせられ、梶原のドラ息子に、口説かれたりしたこともあるが、手強てごわねつけたばかりでなく、これを讒者ざんしゃの片割れと見て、面罵めんばしている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このほかのくだりにも、自身、面罵めんばするような激語がずいぶん見える。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と呼びかけ、彼の不義と、卑劣なる仕方とを、痛烈に面罵めんばした。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
林冲りんちゅう王倫おうりん面罵めんばして午餐会ひるめしかいに刺し殺すこと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それみたことか」と、面罵めんばして怒った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)