隣室となり)” の例文
母は声を低くして、「林の御隠居も隣室となりへ来ておいでる……それで先刻さっきああは言ってみたが、大概私も国の方のことは察しておるわい」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「杜鵑之介といったようじゃな? 杜鵑之介! 杜鵑! そうして今は暁だ! 隣室となりでは嘔吐へどを吐いている。よし! 出来た!」
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隣室となり酔客よっぱらいが総立ちになって、寝るんだ、座敷は、なんてわめいて、留める芸者と折重なって、こっちのふすまへばたばたと当る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ故、一応隣室となりの諒解を求める必要がある。けれど、隣室の人たちはたぶん雨戸をあけるのを好まないだろう。
秋深き (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それにしても、もう立退き命令が来そうなものじゃと、隣室となりの竜之助は心待ちにもなるが、なかなか来ない。
……そう思い思い編輯室の隣室となりの応接間に架けて在る玄洋日報綴込とじこみを、丸卓子テーブルの上に引出して、前月以来の三面記事を次から次へと引っくり返してみると……。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
廊下には人の影もない。彼は跫音あしおとのしない歩き方で、隣室となりの方へ二三歩進み、社長室のドアの所で、一寸立止り相にしたが、思い直してサッサと洗面所へ歩いて行った。
さっきから、隣室となりの境のふすまのかげに、ソッときき耳をたてていた六兵衛の娘、お露さん……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
パッチリと眼がさめると、猫だと思ったのは、隣室となりから、男のいびきがきこえていたのだった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伊香保から此方こちらへ来るまでにありません、伊香保のお隣室となりの奥様ねえ、れは又品が違いますが、此方はあれよりもまだ年がかないようで、伊香保の奥様も明日あした来るか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奥の室の隣室となりには平兵衛の居間があった。母親はその方を見返ってふすま越しに声をかけた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、床の間の千両箱にも変りはないし、大方眠くなって隣室となりに敷いた床の中へ潜り込んだものと思い込み、——御苦労——と声だけ掛けて、そのまま夜を明かしてしまいました。
隣室となりも明いていますか……そう。夜まではどこも明いている……そう。お前さんがここの世話をしておいで?……ならほか部屋へやもついでに見せておもらいしましょうかしらん」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
僕は少時しばらくの間皆の来るのを待っていたが、一向音沙汰がなかったから、隣室となりの三輪さんを覗いて見た。寝坊にも似合わず最早もうキチンとして新聞を読みながら却って此方を待っているようだった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「また蛇が蛙を呑むのじゃアありませんか。」と「水力電気論」を懐にして神崎乙彦が笑いながら庭樹を右に左にけて縁先の方へ廻る。少女おとめへや隣室となりが二人の室なのである。朝田は玄関口へ廻る。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すると、直ぐ隣室となりの暗やみで
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隣室となりへ酒を出して置いて、私はひとりで寝転ねころびながら本なぞを読みます。すると茶屋の姉さんが『橋本さん、貴方は妙な方ですネ』なんて……
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
振り向くと隣室となりの女がひとりで大股にやって来るのだった。近づいた途端、妙に熱っぽい体臭がぷんと匂った。
秋深き (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ばばと黒犬に見える、——その隣室となりの襖際と寝床の裾——皆が沖の方を枕にしました——裾の、袋戸棚との間が、もう一ヶ所かよいで、裏階子うらばしごへ出る、一人立ひとりだちの口で。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それじゃ話してあげましょうか。まず隣室となりの観世様」「観世様が何故不思議だ?」「あんまり鼓がお上手ゆえ」「なるほどこれはもっともだ」「それから馬子の甚三さん」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すっかり彼奴あいつの腹へ這入っちまったからたんまりした仕事が出来ようかと思って居ると、隣室となりに居た女が其奴そいつに岡惚をした様子だから、ちっとばかりい仕事をようと思うと
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あの、旦那様、お隣室となりが混み合いまして、まことにおやかましゅうございましょう。あの、少し手狭てぜまではございますが、あちらの四畳半が明いておりますから、御案内申しましょうか」
いま隣室となりの「女人藝術」編輯室には、いつものみんなの外に珍らしいお客さんたちも見えて、襖一重むかうでは、將來の女人としてのさま/″\な希望が机の上に、人の口に盛んである。
下町娘 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
一空さまが、これから、隣室となりにできた遊び部屋をひらくから、そこで思う存分あばれるようにいうと、わあっと歓声があがった。そして、雪崩なだれを打って、となり部屋へ駈けこんで行った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「様子は隣室となりで聞いておりました。親分、本当に娘は生きておりましょうか」
弱って来た隣室となりの物音と、切れ切れに起るむせび泣きの声から
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さて、夫人は、谷屋の手代というのを、隣室となりのその十畳へ通したらしい、何か話声がしている内
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うんにゃうんにゃ呶鳴どなったのさ。わめいたと云った方があたっている。『唐寺の謎は胎内の……』——人間じゃアねえ人形だ! 人形がそう云って喚いたのさ。すると隣室となりから民弥さんの声だ。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次が隣室となりに隠れる間もありません。バタバタと入って来たのは、若い男。
こともなげに隣室となりから走る一語、お松の骨を刺す冷たさがある。
隣室となりの泣声がピッタリと止んだ。それにつれて又一つ……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
隣室となりからか、天井裏からか。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それとも隣室となりだったかしら。何しろ、私も見た時はぼんやりしてさ、だから、下に居なすった、お前さんの姿が、その女が脱いで置いたものぐらいの場所にありましてね。」
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次が隣室となりに隱れる間もありません。バタバタと入つて來たのは、若い男。
「おまえは誰かに頼まれて、この隣室となりへ来たか」
隣室となりには八畳間が二つ並んで、上下だだうちに、その晩はまた一組も客がないのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医師せんせいは、蹌踉よろけたように、雨戸をうしろに、此方こなたを向き替え、斜めに隣室となりの蚊帳をのぞいた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医師せんせいは横を向く。小松原は、片手を敷布の上、隣室となり摺寄すりよる身構えで
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分で卑下する心から、気がひがんで、あなたの顔が憎らしかった。あなたも私が憎いのね。——ああ、のぶや(女中)二階で手が鳴る。——虫がうるさい。このを消して、隣室となりのをけておくれな。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隣室となりの茶ので、女房の、その、上の姉がしなびた声。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と鼻の下を長くして、土間ごし隣室となりへ傾き
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)