)” の例文
旧字:
まだ薄暗い方丈の、朝露に濡れた沓脱くつぬぎ石までけつまろびつ走って来た一人の老婆が、まばらな歯をパクパクと噛み合わせてあえいだ。
「へえエ、昨夜は玉井家の厄日やくびたい。勝則君も、ごりょんも、けたといいよった。親子三人揃うてこけるちゅうのは珍しか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
折柄荒増あれまさる風に連れて、石滝の森から思いも懸けず、橋の上へ真黒まっくろになって、けつ、まろびつ、人礫ひとつぶてかとすさまじい、物の姿。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お信さんは更に続けて言ひかけたが、その時突然石段につまづいて、あはや前にのめりけようとした。丁度坂の中途だつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
伝二郎は跣足はだしのまま半こわれの寮を飛び出して、田圃のあぜけつまろびつ河内屋の隠居の家まで走り続けて、さてそこで彼は気を失ったのである。
親類のところへ追い出される迄ろげこんで居れ、それも駄目になったら、男さ身体売ったってえゝと云うんです。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
荷を負ったり手に手をつないで行く老幼が馬蹄にかけられてけまろんでいるなどは、めずらしくないちまたであった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松村はあっけにとられて、笑いける私を見ていた。そして、一寸変なものにぶっつかった様な顔をして云った。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不意にすべけた すると頭の上にあった荷物が横になって片手で上げにゃあならんようになった。もうつえは間に合わぬようになってずんずん流された。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こわれた竹垣の端に歪んで立っている街燈が、その下にろがっている太い土管をボンヤリと照し出している。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
気も魂も身に添わずというのは全くこの事で、三人は文字通りにけつまろびつ、息のつづく限り駈け通すうちに、伝兵衛は石につまずいて倒れて、脾腹ひばらを強く打って気絶した。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
補祭はとても笑い上戸で、つまらぬことをいちいち、横腹の痛くなるまで笑いける。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「雪」の衣裳いしょうの着附がすっかり出来上ったところで、けないように右手で床柱につかまりながら、立ったままでお春に足袋を穿かせてもらっていた妙子は、つぶ嶋田しまだの首は動かさずに
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
足溜あしだまりなくける機会はづみに手の物を取落して、一枚はづれし溝板のひまよりざらざらとこぼれ入れば、下は行水ゆくみづきたなき溝泥どぶどろなり、幾度いくたびのぞいては見たれどこれをば何として拾はれませう
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ややありて吸競すいくらべたる膏薬練の、西なるかた吸寄せられて、ぶざまにけかかりたるさまいと可笑おかしきに、われ思わず笑いぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七人の雛妓おしゃくばかりが、二台の馬車につまっていた。馬車がゆれるたびに、雛妓たちはキャッキャと笑いけた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御用筋がせわしくて他町の騒動を外にしていた親分もこれじゃあいかさま出張でばらにゃなるめえ。ほい来たやっこ、それ急げ! 三度に一度あけざあなるめえ!」
昨夜ゆうべ、踊りを観に行ったかえりに、安養寺の坂で、けましてねえ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
随分氷ですべけたりあるいは雪の深い中へ足を突込むこともある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
鋸屑おがくずだらけの道をけつまろびつ逃げて行った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「こんな所でけて死んだら往生や。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
眼元の酔いを、お蔦は、ちょっとあおくしたが、ふいに、長襦袢ながじゅばんの細長い体をしなやかに曲げて笑いけた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが、裾を蹴りひらいて、けつまろびつ、佐吉の伏さっているほうへ駈けて来るのだ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
叫ぶ声、廊下をとどろと走る音、ふすま開閉あけたて騒がしく、屋根を転覆かえした混雑に、あれはと驚く家令の前へ、腰元一人けつ、まろびつ、蒼くなりて走りで、いきせき奥を指さして
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、高氏は一騎打する武者みたいに、けつつもすぐ組ンで、そのまま放ち門の内へ駈け入った。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
度をうしなった足利勢は、ただひとすじの退路渡辺橋わたなべばしへ、われがちにどっとしかかったが、馬は狂い、人と人はもつれあい、かき落されて淀川よどがわの激流へけ落ちたものが何百人かしれなかった
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、笑いけて、とめどもなく、また笑った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は、何がおかしいのか、下品に笑いけた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斧四郎もお喜代も、誘われて笑いけた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けけるわ
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)