おと)” の例文
高枕したまま起きようともしない主水之介の居間にもその夕やみが忍びよったとき、突然、玄関先ではばるようにおとのうた声がある。
わたくし元來ぐわんらい膝栗毛的ひざくりげてき旅行りよかうであるから、なに面倒めんだうはない、手提革包てさげかばん一個ひとつ船室キヤビンなか投込なげこんだまゝ春枝夫人等はるえふじんら船室キヤビンおとづれた。
「その不幸なひとが兇行に遭っている最中に、誰か戸口へおとなっただろうという説もありますが、どうも左様そうらしいですわね」
向うの村のこずえに先ずおとずれて、丘の櫟林、谷の尾花が末、さては己が庭の松と、次第に吹いて来る秋風を指点してんするに好い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「いつも旦那様の天狗講釈てんぐこうしゃくにあてられておりますので、その鬱憤うっぷんによく伺っておきましたので……」主従、笑いにまぎれているかどへ、女客のおとないがする。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四萬六千日しまんろくせんにち八月はちぐわつなり。さしものあつさも、のころ、觀音くわんのんやまよりすゞしきかぜそよ/\とおとづるゝ、可懷なつかし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
初め敵討ちの希望をもって、千葉道場をおとずれて、武術修行を懇願するや、周作はすぐに承知した。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小閑を得ておとずれると、二階へともなって、箏を沢山たてた、小間こまの机の前でこういった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
平次は静かにおとずれると、奥で何やら言い争っておりましたが、しばらく経ってから
百姓は大きに腹を立てて厳重に懸合かけあうけれども、何分証拠がないこととて如何とも仕様がない。弱り果てて、当時有名の弁護士カランの許をおとずれ、どうか取戻の訴を起してくれと頼んだ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
おとなへば梅の木の間に
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
程よく焼いて用いるとき、——ピタピタと言う軽い足音が社務所の玄関口に近づいて来たかと思われるや一緒で、おとのうた声はまさしく銀鈴のような涼しい女の声です。
君の御前を退て和ならず山に分け入りぬれば、自ら世をのがると人はいふめれど、物うき山のすまひしばいほりの風のみあれて、かけひならでは露おとなふものもなし……(中略)
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに今日こんにちまで幾度いくたび各國市府かくこくしふ日本公使館につぽんこうしくわん領事館りやうじくわんおとづれたが、一もそれとおぼしき消息せうそくみゝにせぬのは、大佐たいさその行衞ゆくゑくらましたまゝあらはれてなによりの證據しようこ
チャイコフスキーに突如として不幸のおとずれたのは、一八七七年の初夏であった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
おりから玄関におとなう声。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『ははあ。糸を染めておいでなさるのだ。染桶そめおけがあるし、勾欄こうらんから紅葉もみじの木へ、すすぎあげた五色の糸を、懸けつらねて、干してもある。……はて、何とおとなおう。おどろかしてもよくないし』
そんな話の最中に、障子一重の入口に物々しくおとづれる聲がしました。
右門は慇懃いんぎんおとのうた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たたけば、こわれそうな門のである。いや、たたく必要もなく、二尺ほど、がって、すいていた。しかし礼として、清盛は外からおとなうことにした。たのもう、頼もう——を二度ほどくり返す。
千代之助のおとなうのと一緒でした。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、おとなう者があった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)