肩越かたごし)” の例文
火縄を取つて、うしろざまの、肩越かたごしに、ポン、と投げると、杉の枝に挟まつて、ふつと消えたと思つたのが、めら/\と赤く燃上もえあがつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はや足音は次の間にきたりぬ。母はあわてて出迎にてば、一足遅れに紙門ふすまは外より開れてあるじ直行の高く幅たきからだ岸然のつそりとお峯の肩越かたごしあらはれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
代助は一寸ちよつとはなしめて、梅子うめこ肩越かたごしに、窓掛まどかけあひだから、奇麗なそらかす様に見てゐた。遠くに大きなが一本ある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
袖もなびく。……山嵐さっとして、白い雲は、その黒髪くろかみ肩越かたごしに、裏座敷の崖の欄干てすりに掛って、水の落つる如く、千仭せんじんの谷へ流れた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肩越かたごしに、のへりを、ゆき装上もりあがるやうに、しづくさへしと/\と……とき判然はつきりえたのは、きむらがつた真白まつしろはなである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いてもうでつたのに……と肩越かたごし見上みあげたとき天井てんじやうかげかみくろうへから覗込のぞきこむやうにえたので、歴然あり/\と、自分じぶん彫刻師てうこくしつたおさなとき運命うんめいが、かたちあらはれた……あめ朧夜おぼろよ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「わツ、」とさけんで、咽喉のどつかんだまゝ、けやうとして振挙ふりあげたの、すぢつてぼうごとくにげると、をんなざうつるのやうに、ちら/\とかみくろく、青年わかもの肩越かたごしつばさみだしてひるがへつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
床几しやうぎむすめ肩越かたごし振向ふりむいた。一同いちどうじつ二人ふたりた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)