肉刺まめ)” の例文
九歳になる女の子は裁縫用の鋏で丁寧に一尺四方ぐらいの部分を刈りひらいて、人差し指の根もとに大きなかわいい肉刺まめをこしらえていた。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ゆるしてください、暇がないんです。……(笑う)あなたはね、世間で言う「人の痛い肉刺まめ」を、ぐいと踏んづけなすった。
カピ長 (ロミオの一群に)ようこそ、方々かた/″\! 肉刺まめなやんでらん婦人ふじんは、いづれもよろこんで舞踏敵手おあひてになりませうわい。
さうしてはりさきでおつぎのからたばかりでやはらかくつた肉刺まめをついて汁液みづして其處そこへそれをつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
肉刺まめが出來てはつぶれ、出來てはつぶれして、手の平の皮が次第に厚くなつて來た。もうぢき、平氣で素手でおきをつかむといふやうなことにもなるだらう。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
夢見心地でぼんやりと私は、肉刺まめのできた足を引きっていましたが、その姿が哀れだったのかも知れません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
可愛らしい肉刺まめだらけにして、火の粉の中を漕ぎ抜けたあの女——継の当った木綿物を着ているくせに、名香の匂いを持った不思議な娘、野蛮な情熱と
ボートを岸へつけて、二人は上流のくさむらに腰を下した。漕ぎ疲れた太平は全身がだるく、きしんでゐた。彼の掌は肉刺まめが破れ、血と泥が黒くかたまりついてゐた。
外套と青空 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
長袖ながそであしにも肉刺まめ出來できることはあるまいとおもつて、玄竹げんちくほとんど二十ねんりで草鞋わらぢ穿いたのであつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それで二日もやっていると、鎌を持つ右の手の薬指の附根に肉刺まめをこしらえてしまった。
肩に引掛ひきかけ若き女は上に浴衣ゆかたおほひたれども下には博多縮緬はかたちりめんの小袖を二枚着し小柳こやなぎ縫模樣ぬひもやうある帶をしめ兩褄りやうづま取揚とりあげ蹴出けだしあらはし肉刺まめにても蹈出ふみだせしと見えて竹のつゑつきながら足を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
江戸者ちゅう者は歩きつけねえから旅へ出ると意気地いくじはねえ、わしも宿屋にいますが、時々客人が肉刺まめエ踏出して、吹売ふきがら糊付板のりつけいたを持ってうてえから、いつでも糊板を持って行くだが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は慣れぬ仕事で掌にできた肉刺まめをなでながら、自分にもなにかがつくれるという喜びをかすかに感じた。それは遠いところからきた暗示のように、かすかに私に囁きかけた。なにかがつくれる。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
旅の初日に出た肉刺まめは、二日や、三日で癒らねえし、その脚じゃあ、今日、当り前なら六里歩けるところが、無理なすったため、半分歩きゃあ、又へたばっちまいますぜ——又蔵さん、いい齢をして
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
肉刺まめなんぞたらばたつておとつゝあげいふもんだ、他人ひとのげなんぞせたりなにつかするもんぢやねえ、汝等わツらなんにもらねえからやうねえ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……(婦人連に對ひ)あァ、はァ、姫御前ひめごぜたち! 舞踏をどるをいやぢゃと被言おしゃひとがあるか? 品取ひんどって舞踏をどらッしゃらぬひとは、誓文せいもん肉刺まめ出來できてゐるンぢゃらう。
「まだ諦らめきれないやうですよ。今度は大膳坊を呼んで來て、一と揉みいのらせて見るといふ張りきりで、いやもう、儲けたのは肉刺まめが三つ。こいつは近頃の大笑ひぢやありませんか」
肉刺まめをでかして、歩けなくなるんぢやないかね?」
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
百姓ひやくしやうにしては比較的ひかくてきちひさなれたかとおもほどぽつりとふくれて、どれほどかしつかんでもけつして肉刺まめしやうずべきでないことをあきらかにしめしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)