素振そぶ)” の例文
絵を描いてくれれば、卵も食わせるし、煙草も吸わせるというような素振そぶりを見せる。だがわしは、そんなことをされると、かえって描かん。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その犠牲になっているのだぞという素振そぶりを、彼は機会あるごとに言葉にも動作にも現わした。それは清逸の心を暗くした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
又その素振そぶりや物腰ものごしには何かしら相手の好意と知遇におもねるようなところがある。彼が笑うととてもチャーミングで、髪は薄色で、眼は蒼かった。
ところで、いちばん初め、旦那様の素振そぶりに変なところの見えだしましたのは奥様の御葬儀がおすみになりましてから、三日目のことでございました。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ほかの人間に此れ程軽蔑されたらば、己はきっと腹を立てるのだが、お嬢さんの斯う云う傲慢な素振そぶりを見ると、かえってます/\頭が下るような気がした。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしをだん/\避けて行く葛岡の素振そぶり、凜々りりしい運動の時間とは打って変って女らしさを見せる安宅先生。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それまでは口争い一つしたことのない四人の外人の方も、しだいに言葉数が少なくなって、お互いに警戒するような素振そぶりが日増しに募ってゆきました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
紳士であると思えばこそ世心よごころ知らぬ彼女もしたがっていたのであろうが、長い月日のうちには素振そぶりのあやしげなのが仲間うちからうわさされるようになった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「どうしてああいう素振そぶりをするのか僕にはわからんねえ」と清三が笑いながら言うと、「しっかりしなくっちゃいかんよ、君」と郁治は声をあげて笑った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
よけいに心をいためて、病室にこの過失を知らすまいと努めたのであったが、ひとつ館のうちの出来事ではあるし、そこへ呼ばれてきた侍女こしもと素振そぶりにも不審が見えたので
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らは私たちの「逆廻り」を、うさんくさそうな傍目わきめを使って、あわれむが如き素振そぶりでゆき過ぎた。サッとかき曇った空模様は、何かのたたりを暗示するように思わせた。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
嫌うような素振そぶりをするのであろう……噂によればこの夜頃、鳰鳥のもとへは縹緻きりょうのよい『紫の君』などと綽名あだなを呼ぶ、若衆が通って来るそうだが、それにうつつを抜かしていて
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……どうしてって素振そぶりが第一おかしいじゃないか。生娘きむすめの癖に、亭主持ちの真似をして、一年近くも物凄い廃屋あばらやに納まっているなんてナカナカ義理や物好きでは出来るものじゃないよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女巡礼に恋慕せらる そのうちの歳のいかない娘が非常に思いを深くしたものと見えて、私に対しておかしな怪しい素振そぶりが大分見えて来たです。ですから、私はその意中をじきに察しました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうしてそれぞれ失礼のないようにお迎え申したけれど、ここに奇怪なのはお絹の素振そぶりでありました。この時、お絹はもう昨夜の災難のことなどは、ケロリと忘れてしまっているようでした。
が、彼等は——少くとも妻は、僕のこう云う素振そぶりに感づくと、僕が今まで彼等の関係を知らずにいて、その頃やっと気がついたものだから、嫉妬しっとに駆られ出したとでも解釈してしまったらしい。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
らぬのお八重やへ素振そぶさつせずどく我身わがみ大事だいじにかけるとてゆるほど心配しんぱいさせし和女そなたなさけわすれぬなりりながら如何いかほどくしてくるゝともなるまじきねがひぞとは漸〻やう/\斷念あきらめたりそれにつきてまたべつ父樣と さまはゝさまへの御願おねがひあれどかたなり和女そなたなりになげきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
後からきけば種々いろいろと、平常ふだんに変ったことが多くあったのである。抱月氏でなくとも、彼女を愛する肉親か、女友達があったならその素振そぶりを見逃がさなかったであろう。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかるにこの日招かれて来て、そうして彼女に会って見て、そうして彼女から卒直いっぽんぎの恋の素振そぶりを見せられて、始めて彼は身を焼くような恋の思いに捉えられた。彼は彼女にそそられたのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これはちょうど音頭おんど取りのようなものです。だがその鐃鉢を打ちながら踊り廻る様子の活発で、またその素振そぶりの面白い事は、他の国の舞曲とかダンスとかいうようなものとは余程違って居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今になってから初めごろのことだんだん思い出してみますと、あの観音様のモデルのことでやかましいうわさ立った時分、光子さんかて私がどんな気持でいたか大方素振そぶりでも察しついてたですやろし
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、テレた顔を上げて、見恍みとれるような素振そぶりをしたりしていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)