笑声わらいごえ)” の例文
旧字:笑聲
そういうわけで、知るかぎりの人々に愛され、いたわられて、この小さな藁小屋の中はいつもたのしげな笑声わらいごえがみちていました。
三人づれで、声高こわだかにものを言つて、笑ひながら入つた、うした、などと言ふのが手に取るやうに聞えたが、又笑声わらいごえがして、其から寂然ひっそり
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
旦那様も早く銀行から御帰りになる、御二人とも御客様の御待遇おもてなしやら東京の御話やらに紛れて、久振で楽しそうな御笑声わらいごえが奥から聞えました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人は喫茶店の店先までそっと歩いていったが、恰度ちょうどその時、中から女の笑声わらいごえがしたので、びっくりして、小さい中学生達はどんどん逃げ出しました。
その癖下坐舗したざしきでのお勢の笑声わらいごえは意地悪くも善く聞えて、一回ひとたび聞けばすなわち耳のほら主人あるじと成ッて、しばらくは立去らぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女は短い笑声わらいごえを漏した。「いいえ。それではよろしゅうございます。どうせ起して貰うように頼んで置きましたから」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「まあ、御隠居様が、ほほほほほ……」無論彼女の笑声わらいごえはこんなによくはないのだが、これは女中の声である。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは哥薩克コサックの部落であって鶏犬の声や馬のいななきや若い男女の笑声わらいごえなどが風に運ばれて聞えて来る。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
珠運しゅうんも思いがけなく色々の始末に七日余り逗留とうりゅうして、馴染なじむにつけ亭主ていしゅ頼もしく、おたつ可愛かわゆく、囲炉裏いろりはたに極楽国、迦陵頻伽かりょうびんが笑声わらいごえむつまじければ客あしらいされざるもかえって気楽に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女の姿は、かがやく霧の中へ隠れてしまって、その霧の中から、女の笑声わらいごえが聞える。幸福の笑声、歓喜の笑声である。そしてその霧が散ってしまうと、女の踊っているのが見える。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ひやかすように云って笑声わらいごえをする者があった。それは茶の中折なかおれを着た小柄な男であった。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お杉は又もや凱歌かちどき笑声わらいごえを揚げた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さわやかな海風に笑声わらいごえが流れた。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「旦那いかがでございます。えへへ、」と、かんてらの灯の蔭から、気味の悪い唐突だしぬけ笑声わらいごえは、当露店の亭主で、目を細うして、額でにらんで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
詳しい事情を知らぬ家族の者は、日頃陰気な平田氏が、にわかに快活になって、彼の口からついぞ聞いたことのない笑声わらいごえが洩れるのを、少なからずいぶかしがった。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その女の笑声わらいごえが耳馴れたように聞えたので、店の上さんが吊銭つりせんの勘定をしている間、おもちゃの独楽こまを手に取って眺めていた純一が、ふと頭を挙げて声の方角を見ると
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
侵入者の愉快そうな笑声わらいごえを聞くと美しい看護婦は手を振りながら、一足彼の方へ近寄って来た。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ね、パトラッシュ。くよくよするのは止そうよ。」こう言いながらパトラッシュの頸をだいて接吻キスしてやるのでした。粉挽場の方からは、たのしげな笑声わらいごえがつたわって来ます。
そのお政の半面よこがおを文三はこわらしい顔をしてきっ睨付ねめつけ、何事をか言わんとしたが……気を取直して莞爾にっこり微笑したつもりでも顔へあらわれたところは苦笑い、震声ふるいごえとも附かず笑声わらいごえとも附かぬ声で
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「朝までいるお客さんだよ」章一は小声で云って笑声わらいごえをして、「どうだい」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
月にも、霧にも、ながれの音にも、一座の声は、果敢はかなきひとりむしのやうに、ちら/\と乱るゝのに、娘の笑声わらいごえのみ、水に沈んで、月影の森に遠く響いた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女中に案内せられて、万翠楼ばんすいろうの三階の下を通り抜けて、奥の平家立ての座敷に近づくと、電燈が明るく障子に差して、内からは笑声わらいごえが聞えている。Basseバスいななくような笑声である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その笑声わらいごえの奥に何かしら、まだ解き明かされぬ物がひそんでいる様な気がする。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、そのうちには笑声わらいごえまじった。
車屋の小供 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たのしげな笑声わらいごえがもれるのでした。
これで思出おもいだしたが、この魔のやることは、すべて、笑声わらいごえにしても、ただ一人で笑うのではなく、アハハハハハとあだか百人の笑うかの如きひびきをするように思われる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は話し終って笑ったが、妙に陰気な笑声わらいごえであった。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夜半に及んで、婦人の閨へ推参で、同じはばかるにしても、黙って寝ていれば呼べもするし、笑声わらいごえならくみし易いが、泣いてる処じゃ、たとい何でも、迂濶うかつに声も懸けられますまい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声が玄関までよく通って、その間に見物の笑声わらいごえが、どッと響いた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々どっと山颪やまおろしに誘われて、物凄ものすごいような多人数たにんず笑声わらいごえがするね。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)