立聞たちぎき)” の例文
やがて健は二階の教室に上つて行く。すると、校長の妻は密乎こつそりと其後をけて行つて、教室の外から我が子の叱られてゐるのを立聞たちぎきする。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人が捨石から立上って、大食堂の建物の方へ歩いて行くと、木蔭の黒入道くろにゅうどうも、立聞たちぎきをやめて、コソコソと夕闇の彼方へ消えて行った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうなれば屹度きっとこの間の意趣いしゅを返すに違いはありません、なんでも彼奴が一件を立聞たちぎきしたに違いないから、貴方あなたうかして孝助を殺して下さい
退しりぞ投首なげくびなし五日の中に善惡二つを身一つにして分る事のいとかたければ思案にくれるに最前さいぜんよりも部屋の外にて二個ふたり問答もんだふ立聞たちぎきせし和吉は密と忠兵衞のそばへ差寄りたもと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狸退治の極意を一寸こゝにお話すると、(うか成るべく口の中で低声こごゑで読んで欲しい、さもないと狸が立聞たちぎきするかも知れないから)狸はよく雨夜あまよに出て悪戯いたづらをする。
島は、うき島、八十やそ島。浜は、長浜ながはま。浦は、おうの浦、和歌の浦。寺は、壺坂、笠置、法輪。森は、しのびの森、仮寝うたたねの森、立聞たちぎきの森。関は、なこそ、白川。古典ではないが、着物の名称など。
古典竜頭蛇尾 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「奴なんぞと云うじゃアねえ。何処に立聞たちぎきをしていて、んなたたりをするか知れねえ。幾らお前様めえさまが理屈を云ったって、𤢖に逢ったが最後、んな人間だってかなうものじゃねえから……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
思案に沈んでいるあわれな人に、易者えきしゃがどんな希望と不安と畏怖いふと自信とを与えるだろうという好奇心にかされて、面白半分、そっと傍へ寄って、陰の方から立聞たちぎきをする事がしばしばあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不図ふと立聞たちぎきして魂魄たましいゆら/\と足さだまらず、其儘そのまま其処そこ逃出にげいだし人なき柴部屋しばべやに夢のごといると等しく、せぐりくる涙、あなた程の方の女房とは我身わがみためを思われてながら吉兵衛様の無礼過なめすぎた言葉恨めしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
翌日よくじつハバトフは代診だいしんれて別室べっしつて、玄関げんかんでまたも立聞たちぎき
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
老人は軒のつばめ立聞たちぎきでもされるのを気遣ふやうに、わざと声を落した。
調合てうがふして用るがよろしからん此事はまづ新道しんみち玄柳げんりう方へ行て相談さうだんいたすべしと四人打連立うちつれだちて出行たりさて彼の長助は毒藥どくやくと云こゑ不※ふときこえければ又々四人の者共が惡事あくじならん何れまたさまの事なるべしとおつねの部屋のそばより立聞たちぎき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)