祐筆ゆうひつ)” の例文
そのことはさすがに、信盛に一任したが、信長はべつにまた在中国の秀吉にたいして、一通の軍令を口授くじゅして、祐筆ゆうひつに書かせていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥さまおこよ様のご父君松坂兵衛ひょうえ様とおっしゃるおかたが、国もと新発田の溝口みぞぐち藩に、やはりご祐筆ゆうひつとして長らくお仕えでござりましたゆえ
惣七とお高のあいだが、いつしか単なる女祐筆ゆうひつとその主人の関係以上に進んでいたとしても、それは、きわめて自然だ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白木の位牌いはいには、祐筆ゆうひつ相田清祐のあざやかな手蹟しゅせきが読まれた。端座してそれを見つめていた阿賀妻は、一揖いちゆうして、「されば?——」と振りかえった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
昔の祐筆ゆうひつのように、初めから書を職業とするため、稽古を積んだというようなものでないことはいうまでもない。
小西行長の祐筆ゆうひつの家に生れた彼は幼少のため関ヶ原の合戦に参加せず、故郷の宇土で主家の没落を迎へた。
わが血を追ふ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
松平老中もしかたなしに、然らばきように取り計らえ、後日同僚に不平があっても自分の罪ではないと言う。駿河は甘んじてその責めを受けた。書面は同行の祐筆ゆうひつしたためた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すなわち上等は儒者、医師、小姓組こしょうぐみより大臣たいしんに至り、下等は祐筆ゆうひつ中小姓なかごしょう(旧厩格)供小姓ともごしょう小役人こやくにん格より足軽あしがる帯刀たいとうの者に至り、その数の割合、上等はおよそ下等の三分一なり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
五百はすぐに中臈ちゅうろうにせられて、殿様づきさだまり、同時に奥方祐筆ゆうひつを兼ねた。殿様は伊勢国安濃郡あのごおり津の城主、三十二万三千九百五十石の藤堂和泉守いずみのかみ高猷たかゆきである。官位はじゅ四位侍従になっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
旗本屋敷の中小姓がおもな勤めは、諸家への使番と祐筆ゆうひつ代理とであった。人品がよくてお家流を達者にかく林之助は、こうした奉公の人に生まれ付いていたので、屋敷内の気受けも悪くなかった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
島仲 久一郎(表祐筆ゆうひつ、三十二歳、八十石)
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ぜひもない」と、尊氏はだまって、祐筆ゆうひつに両者へ与える軍忠状を書かせ、今川範国のりくに袖判そではんさせて「さらにはげめ」と、ふたりへさずけた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主君と祐筆ゆうひつであった。すべてを見とどけて、一足先に、気づかれぬよう帰るところだ。彼は胸がつまって、高いところにいる仲間のものをふりかえった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「ほほうのう。ご祐筆ゆうひつでござったのじゃな。では、剣術なぞのご修業は自然うとかったでござろうな」
するとしばらくして、祐筆ゆうひつに命じて書かせた大きな提示が、広間に張り出されました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
上等の内にて大臣と小姓組とを比較し、下等の内にて祐筆ゆうひつと足軽とを比較すれば、その身分の相違もとより大なれども、あきらかに上下両等の間に分界をかくすべき事実あり。すなわちその事実とは
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一日中、秀吉の身辺は、かれのさしずを待つ奉行や留守居の将や、また遠国からの使者や、祐筆ゆうひつや、近習の取次などに、忙殺ぼうさつされていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご祐筆ゆうひつ——それなれば」と阿賀妻は相田清祐のあから顔をじっと見あげた。答えを待った。その殿はどうお考えであろう、と、一ばん側近の老人に伺っているのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しめし合わせた老職が袈裟掛けさがけの二太刀で無残にもこれを追い傷にしとめ、また元来が藩の祐筆ゆうひつであまり刀法には通じていなかったものでしたから、手もなくしてやられたその死骸しがいをば
といったまま、また祐筆ゆうひつにむかってなにか文言ぶんげんをさずけている。と、福島正則ふくしままさのり和田呂宋兵衛わだるそんべえ蚕婆かいこばばあ修道士イルマンを連れてはるかに平伏へいふくさせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜂須賀はちすか彦右衛門にいいつけて、十数名の祐筆ゆうひつを臨時に選び、明々と高張たかはりを左右に掲げて、参陣者の姓名を着到帳ちゃくとうちょうに記させた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、奥州の伊達侯などは、六十余万石の領主であり、大の煙草の好者すきしゃといわれているが、祐筆ゆうひつ御日常書ごにちじょうがきによると
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀は、小荷駄こにだの者が、簡単に張りめぐらした幕の陰に床几しょうぎをすえて、いま食事もすまし、祐筆ゆうひつの者に、何か一通の手紙を口述して書かせていたが
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひるすぎても、秀吉の前にはなお、新たな賀客がたえず、その間に秀吉は、祐筆ゆうひつ三人ばかりを側において、何か雑然と藩の扶持帳ふちちょう庫帳くらちょうなどをひろげさせ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さらば、支度をなせ」と、彼を先鋒へ返してから、仲達は祐筆ゆうひつに命じて、檄をしたためさせ、これを曹真の本陣へ告げて、作戦方針を示し、かたがた
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いかに剃髪して、法衣一枚の身がるになっても、扶持ふちがのうては、食うてゆけまい。離しがたい女房どもや眷族けんぞくもあろうに。……よし、祐筆ゆうひつ、筆をかせ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祐筆ゆうひつの大村由己は、今、秀吉の口述をうけて、一書を代筆していたが、ふと、醍醐だいごという文字をどわすれして、頻りと、筆の穂を噛みつつ思い出そうとしていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう三方面から日々ここへあつまって来る文書、報告などもおびただしい。もちろん参謀さんぼう祐筆ゆうひつなどの部屋を通って一応は整理され、緊要なものだけが信長の眼に供された。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、曹操は祐筆ゆうひつをかえりみて何かいった。祐筆はすぐ一通の文をしたためて来て、丁斐に授けた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祐筆ゆうひつ。秀吉へ宛てて、すぐ書面をしたためい。自身、出て参れと。時をうつさず、天野山へ参れと」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これに教書きょうしょの案文をしたためておいた。祐筆ゆうひつに命じて、同文の教書十数通をしたためさせ、そちが花押かきはんして、それに書上げておいた大名諸武士らへ、すぐ布令ふれをまわせ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と彼の祐筆ゆうひつはその日の感激に最大なことばをもってもなお云い足りないように書いている。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思うと、うしろにいた祐筆ゆうひつの前へ、信長の手から書面のからがぽんと投げ捨てられて来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家康は、祐筆ゆうひつしたためさせた自身の書面を、膝においた手に持って、床几にっていたが
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また祐筆ゆうひつなどの私情によって左右されるわけも絶対にない。信長公のさしずであり、故意なること明白であると、明智家の将士は、この廻状に接したとき、悲憤、怒涙をしぼって
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「また南条からこれまでのあいだに、途中から御陣列に加わった後入あといりの組は、さっそく到着をしたためて、その人員名簿を、ここの出立までに、本隊の祐筆ゆうひつまで差出しておくように」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも信玄の側にはその時、幕将も祐筆ゆうひつもことごとく遠ざけられていたのである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日々の行軍、日々の風流は、このときも随行していた信長の祐筆ゆうひつ太田牛一が、その「信長公記」に克明に書いている。却ってその原文に見るほうが、髣髴ほうふつと当時をしのばしめるものがある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまも、祐筆ゆうひつになにか書かせながら、じぶんは花判かきはん黒印こくいんをペタペタしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから彼の祐筆ゆうひつや、松永貞徳まつながていとくなども、やむなく彼の素姓に筆のふれる時には
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が祐筆ゆうひつに記録させておいたところを見ても、それを半兵衛重治と対照して
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という勝色かちいろの中にどよめいていたが、帷幕いばくのうちの光秀は、祐筆ゆうひつを側へひき寄せて、次々に書状をしたためさせ、それに自身が花押かおうして、また、側臣と何か密議しているなど、多忙と緊張の極に
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころの彼が、どんな身なりをし、どんな生活をして、世の暗黒を彷徨さまよっていたかは、始終彼の祐筆ゆうひつを勤めている大村由己ゆうこだの松永貞徳の口や筆などからは、到底知るよしもないことである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祐筆ゆうひつがうけとって近侍きんじにわたす。近侍から左京之介の手へ。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉の祐筆ゆうひつ、大村由己は、その日の記をしるしていう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はや帰ったか。……では、祐筆ゆうひつをよべ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてすぐ祐筆ゆうひつを呼び
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祐筆ゆうひつ、筆をとれ」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祐筆ゆうひつの安間了現りょうげん
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祐筆ゆうひつ
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)