けい)” の例文
ちょうどその季節きせつでありました。とおい、あちらにあたって、カン、カン、カンカラカンノカン、……というけいおとがきこえてきました。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)
叔父御よりも甥の殿の方がまだしもの果報があると思いながら、香を手向たむけて去ろうとすると、入違いれちがいに来てけいを打つ参詣者があった。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先師が衛に滞在中、ある日けいをうって楽しんでいられた。その時、もつこをかついで門前を通りがかった男が、いった。——
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
空を踏むがごとく、雲を行くがごとく、水中にけいを打つがごとく、洞裏とうりしつするがごとく、醍醐だいごの妙味をめて言詮ごんせんのほかに冷暖れいだん自知じちするがごとし。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このとき、はや衆僧は、如海にょかいに引率されて、奥の法要の道場へ乗込んでいた。香煙こうえんるるとけいを合図に礼拝らいはいする。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樋の口から石に落ちる点滴が、長いを置いて、けいを打つような響をさせている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
糀街こうじまち」と唐文字からもじ刺繍ぬいとりした唐幡とうばん青龍幡せいりゅうばんを先にたて、胡弓こきゅう蛇皮線じゃびせん杖鼓じょうこけい、チャルメラ、鉄鼓てっこと、無闇むやみに吹きたて叩きたて、耳もつんざけるような異様な音でけたたましく囃してゆく。
沈南蘋ちんなんぴんの花鳥、花生けは、宋窯そうようの水の垂れるような青磁、けいが掛っていたが、その幅が二尺あまりもあって、そのいずれを見ても、闇太郎の鑑識眼では、上乗無類、値打の程も底知れぬものだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
けたたましい題目とけいの音とが、耳に乱入して来るのを聞きました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
斯くはひてふりわけ髪の世も知らず古りしけいうつ深院しんゐんのひと
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
千山のゆふべの峰の大安寺けいの音ぞする岩の寒きに
楞厳りょうごんけみんで けいたたくにものうし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
短夜みじかよ鉦鼓しょうこにまじるけいの音
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
伽藍がらんあさけい
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
古きけいを打ち
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
叔父御よりもおいの殿の方がまだしもの果報があると思いながら、香を手向たむけて去ろうとすると、入れ違いに来てけいを打つ参詣者があった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十名ほどの僧が出て、背をならべて、誦経ずきょうしていた。けいが、谷までひびいて行った。そして、谷間からも、きょうの声と、磬の音が、こだまになって返ってきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けいを衞に撃つ、を荷いて孔子の門を過ぐる者あり。曰く、心あるかな磬を撃つやと。既にして曰く、なるかな硜硜乎こうこうこ硜たり。己を知るなくんば、斯れ已まんのみ。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
カン、カン、カンカラカンノカン、……とあめなかに、とおけいをたたくおとがきこえていました。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)
けいを打って入室相見にゅうしつしょうけんの時、足音を聞いただけで、公案の工夫くふうが出来たか、出来ないか、手に取るようにわかるものじゃと云った和尚おしょうがある。気の引けるときは歩き方にも現われる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坂を降りて左側の鳥居を這入はいる。花崗岩みかげいしを敷いてある道を根津神社の方へく。下駄のけいのように鳴るのが、い心持である。げた木像の据えてある随身門ずいじんもんから内を、古風な瑞籬たまがきで囲んである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うす暗い本堂の内陣脇ないじんわきで、一人の中年僧が、お勤めをしていたのだが、ふつうの勤行ごんぎょうと違い、その僧は木魚もくぎょかねけい、太鼓、しょうの五ツぐらいな楽器を身のまわりにおき
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はしばしば詩を吟じ、しつを弾じ、けいを撃った。今日も彼は、一人で朝から磬を撃っていたが、その音は、門外にひびいて、水晶の玉がふれあうように、澄んだ空気の中を流れていた。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
まつりのになりました。けいおととおくあちらできこえました。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)
天井からは鰐口わにぐちけいが枯れた釣荵つりしのぶと一しょに下がっている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鐘、けいの音——そして、明々あかあかと、つぎ直されたあかしに、蓮華が、ひらひらと、かれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楽官補佐のようと、けい打ち役のじょうとは海をこえて島に逃げた。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
はや菩提寺ぼだいじからは、法事の諸道具、仏器一切が運び込まれていたから、石秀せきしゅうは寺男とともに、祭壇をくみたて、仏像、燈明、御器ごきかね、太鼓、けい香華こうげなどをかざりたてたり
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けいひとつ洩れないでけてゆく伽藍がらんの下には、ただ、水底のような夜気があった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)