澎湃ほうはい)” の例文
その前年かに、泡鳴は小説「耽溺たんでき」を『新小説』に書いている。自然主義の波は澎湃ほうはいとして、田山花袋たやまかたいの「蒲団ふとん」が現れた時でもあった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
何だかこう、きらきらと絶え間なく反射しながら、水の表面がふっくらと膨れ上って、澎湃ほうはいき騒いでいるように感ぜられる。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼はただ大光明のために、烈しく眩暈めまいが起るのを感じた。そうしてその光の中に、大勢おおぜいの男女の歓喜する声が、澎湃ほうはいと天にのぼるのを聞いた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は煉瓦の建物の岸壁に沿って、澎湃ほうはいとして浮き流れるその各国人の華やかな波を眺めながら、誰か知人の顔が浮いていないかと探してみた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
別に意識のあるわけでなし、心を鎮めて伏してゐると、果ての知れない遠い処に澎湃ほうはいと溢れ、静かにこぼれるものがあつた。
プロレタリヤ文学——そういった新らしい芸術運動の二つのちがった潮流が、澎湃ほうはいとして文壇にみなぎって来たなかに、庸三は満身に創痍そういを受けながら
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
百姓一揆ひゃくしょういっきというものが澎湃ほうはいたる一大勢力となり、牧民者がほとんど手のつけようがなく、しかも表面は相当の刑罰を以て臨むにかかわらず、事実は
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんな優柔不断は、ご自身で蹴ってしまわなければ、生涯、碌々ろくろくと終るしかありますまい。——澎湃ほうはいたる世上の風雲を
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あながち油のたりない裸燈心はだかとうしんのためばかりではなかったろう……弥生はいながらに身を涙の河に投じて、澎湃ほうはいとよせてくるおのが情感に流されるままに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もういつからか経験したことのない感情が、彼の胸へ波のごとく澎湃ほうはいと押しよせて、みるみる彼の心を柔らげた。彼はもうそれに逆らおうとしなかった。
これが実現した暁には北西の空からあらゆる波長の電磁波の怒濤どとう澎湃ほうはいとしてわが国土に襲来するであろう。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その呼吸に「カナリヤの労働」——きな臭い煙草——の名のかおりが絡み、散乱する長調の音譜と、澎湃ほうはいたるこの雑色の動揺と、灼輝しゃっきする通行人の顔と動物的な興奮。
私どもの想像を絶するほどのものがあったのではなかろうか。周さんが、夏休みに東京へ行き、まず感じたものは、その澎湃ほうはいたる文芸の津波ではなかったろうか。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
和語への自覚が澎湃ほうはいとして興って来た今日、その存在は幾多の感謝を以て顧みられねばならないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
飛んでもないことである。五十歳前、徳川三百年の封建社会をただ一あおりに推流おしながして日本を打って一丸とした世界の大潮流は、まずやすまず澎湃ほうはいとして流れている。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
また、澎湃ほうはいたる波濤はとうの如く常に身辺に押寄せつつある。私等はそのひびきとその波の中に生滅しつつある。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ここに神話の政治手段としての役割がある。神話のない運動は、澎湃ほうはいたる活力を持つことができない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
見ゆる限り海波が渺茫びょうぼうとして、澎湃ほうはいとして、奔馬のごとくに盛り上がって、白波が砕けて奔騰し、も一度飛び散って、ざざーっとはるかの眼下のいわおに、飛沫しぶきをあげています。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし、当時勤王思想が澎湃ほうはいとして起って居り、幕府縁故の諸藩とも嚮背こうはいに迷って居り、幕軍自身が、新選組や会津などを除いた外は、決然たる戦意がなかったのであろう。
鳥羽伏見の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
文久二年とともに湧き起る澎湃ほうはいたる行動期の一特色は、すでに地方産商業家の中から算盤そろばんを棄て資財をなげうってみずから諸戦野に出動する者が続々として認められた点にある。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
そうなって、澎湃ほうはいとおこってくる反乱の勢いを、ミスルの財閥や英軍がどうふせぐだろうか
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
逆にどんな澎湃ほうはいたる歴史の物語もそこに関与したそれぞれの社会の階層に属す人間の名をぬいて在ることは出来ないという事実の機微からみれば、たとい草莽そうもうの一民の生涯からも
今日の文学の諸相 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
だが朝鮮の文人達の間にも澎湃ほうはいとして時局認識運動が高まり、鮮かに水煙りを飛ばして彼等が自分を追い越し去ったのだ。それを思えば他の連中が歯ぎしりする程憎くてならない。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
その邸内の何町四方はいっぱいの樹海じゅかいだ。緑の波が澎湃ほうはいとして風にどよめき、太陽に輝やき立っているのである。ベルリンでは市民衛生のめ市中に広大なチーヤガルデン公園を置く。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
世界にしる澎湃ほうはいたる怒濤が死ぬに死なれない多感の詩人の熱悶苦吟に和して悲壮なる死のマーチを奏する間に、あたかも夕陽いりひ反映てりかえされて天も水も金色こんじきいろどられた午後五時十五分
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ひつじは俄然がぜん虎になった。処女は脱兎だっとになった。いままで湲々えんえんと流れた小河の水が一瀉いっしゃして海にいるやいなや怒濤どとう澎湃ほうはいとして岩をくだき石をひるがえした。光一の舌頭は火のごとく熱した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
大風たいふう颯々さっさつたる、怒濤どとう澎湃ほうはいたる、飛瀑ひばく※々かくかくたる、あるいは洪水天にとうして邑里ゆうり蕩流とうりゅうし、あるいは両軍相接して弾丸雨注うちゅうし、艨艟もうどう相交りて水雷海をかすが如き、皆雄渾ならざるはなし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そのリズムは大浪おおなみのうねりのように澎湃ほうはいとしてき起って来るような力をもっていた。何かしら自分もその波の上に乗ってどこか広々としたところにつれて行かれるような気に私は襲われた。
澎湃ほうはいたる熱情の波にゆられながら、竜太郎は叫ぶように、いった。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
無限のうしほ澎湃ほうはいと高鳴り渡り、神明の
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
逐日ちくじつ、織田遺業の勢力けんに、秀吉なる名が、何とはなく、澎湃ほうはいたる威勢をもって聞え出して来たことは、勝家として、到底、晏如あんじょとしているに忍びない現象であるのだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義和団ぎわだんの乱に依って清朝の無力が、列国だけでなく、支那の民衆にも看破せられ、支那の独立性を保持するには打清興漢の大革命こそ喫緊きっきんなれとの思想が澎湃ほうはいとして起り
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
並んで流れつつ、それは別な河、という存在ではなくて、澎湃ほうはいたる日本の新民主主義文学のゆたかにひろい幅と、雄大なその延長とのうちにとけ入り、包括されるはずのものと思う。
作家の経験 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかし光のもやに似た流れは、少しもその速力をゆるめない。かえって目まぐるしい飛躍のうちに、あらゆるものをおぼらせながら、澎湃ほうはいとして彼を襲って来る。彼は遂に全くそのとりこになった。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
街区の空間は今や巨大な熱情のために、膨れ上った。その澎湃ほうはいとした群衆の膨脹力はうす黒い街路のガラスを押し潰しながら、関門へと駈け上ろうとした。と、一斉に関門の銃口が、火蓋を切った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
澎湃ほうはいとして、諸国三道の合言葉となった。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)