漁夫りょうし)” の例文
その風にって難破し、五六人の乗組の漁夫りょうしがみんな溺死して、その死体がそれから四五日もたってから隣村となりむらの海岸に漂著ひょうちゃくしましたが
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「波が高いから、漁夫りょうし達を集めて船をずっと陸の方へ引上げるんです。姉さんはそんなことも知らないんですか、つうぶってるくせに。」
月明 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この血だらけの魚の現世うつしよさまに似ず、梅雨の日暮の森にかかって、青瑪瑙あおめのうを畳んで高い、石段下を、横に、漁夫りょうしと魚で一列になった。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを見て最初叫んだものが、「黒船、黒船!」と言ったのを、寝耳に水のように聞いた漁夫りょうしたちが、「鯨だ、鯨だ!」と間違えたのだろう。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
華表を潜りながら拝殿の方へ眼をやった。拝殿の方から嬰児あかんぼを負った漁夫りょうしのおかみさんらしい女が出て来るところであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
漁夫りょうしの中を転がりまわって、半風子しらみを分け合った吾輩の眼から見ると、その奥にモウ一つ深い心理的な理由があるのだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
酒を吸筒すいづゝへ詰込みまして、神田の昌平橋しょうへいばしの船宿から漁夫りょうしを雇い乗出のりだしましたれど、新三郎は釣はしたくはないが
いくらトゲを立て毒を吹く悪魚でも、漁夫りょうしはそれを掴むのに何のためらいもしていないようにである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし最初の半月ほどの間に一番僕と親しくしたのはやはりあのバッグという漁夫りょうしだったのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
芸者の揃いの手古舞てこまい姿。佃島つくだじま漁夫りょうし雲龍うんりゅう半纏はんてん黒股引くろももひき、古式のいなせな姿で金棒かなぼうき佃節を唄いながら練ってくる。挟箱はさみばこかついだ鬢発奴びんはつやっこ梵天帯ぼんてんおび花笠はながさ麻上下あさがみしも、馬に乗った法師武者ほうしむしゃ
すると一日あるひ天気てんきのいいのこと、漁夫りょうしおきあみろしますと、それに胡弓こきゅうが一つひっかかってきました。それが、あとになって、乞食こじきっていた胡弓こきゅうであることがわかりました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「岩内にも漁夫りょうしは多いども腕力うでぢからにかけておらにかなうものは一人だっていねえ」
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「つまらない。しかし魚は漁夫りょうし魚籃びくの中に這入はいるから、いいじゃないですか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
羽田などの漁夫りょうしが東京の川へ来て居るというと、一寸聞くと合点がいかぬ人があるかも知れないが、それは実際の事で、船を見れば羽根田の方のはみよしの方が高くなって居るから一目で知れる。
夜の隅田川 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
漁舟りょうぶねや、沖を航海している帆前船などが難船して、乗組の漁夫りょうしや水夫が溺死できししたりするのは、いつもその風の吹く時でした。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
結局、五島の漁夫りょうし達が見たという○に福の字の旗印が問題になって、福昌号に嫌疑がかかって行ったが、その時分には千六は最早もはや長崎に居なかった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
医者のチャックも来るくらいですから、学生のラップや哲学者のマッグの見舞いにきたことはもちろんです。が、あの漁夫りょうしのバッグのほかに昼間はだれも尋ねてきません。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しばらくすると、薄墨をもう一刷ひとはけした、水田みずたの際を、おっかな吃驚びっくり、といった形で、漁夫りょうしらが屈腰かがみごしに引返した。手ぶらで、その手つきは、大石投魚を取返しそうな構えでない。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は何時いつの間にか泪橋なみだばしの傍へ往っていた。そのあたりには漁夫りょうしの家が並んでいた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
川狩をしていた漁夫りょうしであろうか、一人はもうざぶざぶと水音を立てている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妹の所へけば、二人とも一緒に沖に流されて命がないのは知れ切っていました。私はそれが恐ろしかったのです。何しろ早く岸について漁夫りょうしにでも助けに行ってもらうほかはないと思いました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
縁起えんぎがいいと言われてる正覚坊が、向こうからたずねて来てくれたんですもの、漁夫りょうしとしてこれくらい愉快ゆかいなことはありません。平助はすぐに、ありったけのお金で、酒をたくさん買って来ました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そうかと思うと沖から来る漁夫りょうしなぞは『甘い事云いなさんな。ナメラが最極上いっち利く』と云う者も居ります。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その時為吉の父親は、二十七八の血気盛りの勇敢な漁夫りょうしで、ある漁船の船頭をしていたのでした。そして県庁から、人の生命を助けた効によって、褒状ほうじょうを貰いました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
麓では、二人の漁夫りょうしが、横に寝た大魚おおうおをそのまま棄てて、一人は麦藁帽むぎわらぼうを取忘れ、一人の向顱巻むこうはちまき南瓜とうなすかぶりとなって、棒ばかり、影もぼんやりして、うねに暗く沈んだのである。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちにあのバッグという漁夫りょうしの河童の話には、なんでもこの国のまちはずれにある年をとった河童が一匹、本を読んだり、ふえを吹いたり、静かに暮らしているということです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浜には船もいません、漁夫りょうしもいません。その時になって私はまた水の中に飛び込んで行きたいような心持ちになりました。大事な妹を置きっぱなしにして来たのがたまらなく悲しくなりました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「とりますわ、この湖で鯉をって生活している漁夫りょうし数多たくさんありますわ」
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
正覚坊しょうかくぼうというのは、海にいる大きなかめのことです。地引網じびきあみを引く時に、どうかするとこの亀が網にはいってくることがあります。すると漁夫りょうし達は、それを正覚坊がかかったと言って大騒ぎをします。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
網をたずさえた漁夫りょうしが、鯨をながめて嘆じるように
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正直正銘のところ山内閣下から轟……轟といって可愛がらるよりも、五十万の荒くれ漁夫りょうしどもから「おやじおやじ」と呼び付けられる方が、ドレ位嬉しいかわからない。この心境は知る人ぞ知るだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小さな漁船から漁夫りょうしがいうのだった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)