温順すなほ)” の例文
何様しても彼様しても温順すなほ此方こちの身を退くより他に思案も何もない歟、嗚呼無い歟、といふて今更残念な、なまじ此様な事おもひたゝずに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
細い美しい眉も、さも温順すなほに見えたが、鼻は希臘型ギリシヤがたとでもいふのか、形好く通ツて、花びらのやうな唇は紅く、あごは赤子の其のやうにくびれてゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ちゝにまで遠慮ゑんりよがちなればおのづからことばかずもおほからず、一わたしたところでは柔和おとなしい温順すなほむすめといふばかり、格別かくべつ利發りはつともはげしいともひとおもふまじ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この幸運こううんじやうじて、吾等われら温順すなほ昨日きのふみちかへつたならば、明日めうにち今頃いまごろにはふたゝ海岸かいがん櫻木大佐さくらぎたいさいへたつし、この旅行りよかうつゝがなくをはるのであるが、人間にんげん兎角とかくいろ/\な冐險ぼうけんがやつてたいものだ。
よろづ温順すなほにして、君子の体を具へて小なるものともいひつべきさまなる、取り出でゝ賞むべきものにもあらぬやうなれど、なか/\に好まし。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
長吉のわからずやはれも知る乱暴の上なしなれど、信如の尻おし無くはあれほどに思ひ切りて表町をばあらし得じ、人前をば物識ものしりらしく温順すなほにつくりて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし一ばんに氣にツたのは、まゆと眼で、眉はたゝ温順すなほにのんびりしてゐるといふだけのことであツたが
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
長吉ちやうきちのわからずやはれも亂暴らんぼううへなしなれど、信如しんによしりおしくはれほどにおもりて表町おもてまちをばあらじ、人前ひとまへをば物識ものしりらしく温順すなほにつくりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何事も皆天運まはりあはせぢや、此方の了見さへ温順すなほやさしく有つて居たなら又好い事の廻つて来やうと、此様おもつて見ればのつそりに半口与るも却つて好い心持
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
一體螢といふ蟲は、露をツて生きて居るやうな蟲だから、性質が温順すなほつかまへ易い。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
我れも他人の手にて育ちし同情を持てばなり、何事も母親に氣をかね、父にまで遠慮がちなれば自づから詞かずも多からず、一目に見わたした處では柔和しい温順すなほの娘といふばかり
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我れも他人の手にて育ちし同情を持てばなり、何事も母親に気をかね、父にまで遠慮がちなれば自づからことばかずも多からず、一目に見わたした処では柔和おとなしい温順すなほの娘といふばかり
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伯母おば高慢こうまんがほはつく/″\とやなれども、あの高慢こうまんにあの温順すなほなるにてことなくつかへんとする氣苦勞きぐろうおもひやれば、せめてはそばちかくにこゝろぞへをもし、なぐさめにもりてやりたし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いよいよおぬひが身のいたましく、伯母が高慢がほはつくづくと嫌やなれども、あの高慢にあの温順すなほなる身にて事なく仕へんとする気苦労を思ひやれば、せめてはそば近くに心ぞへをも
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まつりの夜の處爲しうちはいかなる卑怯ぞや、長吉のわからずやは誰れも知る亂暴の上なしなれど、信如の尻おし無くば彼れほどに思ひ切りて表町をばあらし得じ、人前をば物識ものしりらしく温順すなほにつくりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)