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涵
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ひた
ふりがな文庫
“
涵
(
ひた
)” の例文
仲間の抜荷買連中と共に
逸早
(
いちはや
)
く旅支度をして豊後国、
日田
(
ひた
)
の天領に入込み、人の余り知らない山奥の
川底
(
かわそこ
)
という温泉に
涵
(
ひた
)
っていた。
名娼満月
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
その意味で、それが
畏
(
おそ
)
れを滲ませているかぎり、画布はいのちの中に
涵
(
ひた
)
り、いのちの中に濡れているともいえよう。ハイデッガーはいう。
絵画の不安
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
車輪を洗ふ許りに
涵
(
ひた
)
々と波の寄せてゐる
神威古潭
(
かむゐこたん
)
の海岸を過ぎると、錢凾驛に着く。汽車はそれから
眞直
(
まつしぐら
)
に石狩の平原に進んだ。
札幌
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
日々に接しているお増夫婦のほしいままな生活すらが、美しい
濛靄
(
もや
)
か何ぞのような
雰囲気
(
ふんいき
)
のなかに、お今の心を
涵
(
ひた
)
しはじめるのであった。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
わが歩みは檜の日かげより丘のはづれの小亭へ、その傍の径を下りて睡蓮科の生ひ
涵
(
ひた
)
れる小さき池のほとりへゆく。
春の暗示
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
▼ もっと見る
バサバサと凍った雪を踏んで、月光のなかを、彼は美しい想念に
涵
(
ひた
)
りながら歩いた。その晩行一は細君にロシアの短篇作家の書いた話をしてやった。——
雪後
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
園ノ西南
厓
(
がい
)
ニ
倚
(
よ
)
ツテコレヲ径ス。眺観
豁如
(
かつじょ
)
タリ。
筑波
(
つくば
)
二荒
(
ふたら
)
ノ諸峰コレヲ
襟帯
(
きんたい
)
ニ
攬
(
と
)
ルベシ。厓下ニ池アリ。
倒
(
さかしま
)
ニ雲天ヲ
涵
(
ひた
)
シ、
芰荷菰葦叢然
(
きかこいそうぜん
)
トシテコレニ植ス。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
紅を
潮
(
さ
)
してゐる、日は少し西へ廻つたと見えて、崖の影、
峯巒
(
ほうらん
)
の影を、深潭に
涵
(
ひた
)
してゐる、
和知川
(
わちがは
)
が西の方からてら/\と河原を
蜒
(
うね
)
つて、天竜川へ落ち合ふ。
天竜川
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
この国には水のほかに何か飲料が出るかね? 自分は水にドクニンジンの葉を
涵
(
ひた
)
して飲んだことがあるが、これは暑いときにはただの水よりよいと思った、と。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
バルコンの外の
槐
(
えんじゅ
)
の梢は、ひっそりと月光に
涵
(
ひた
)
されている。この槐の梢の向う、——幾つかの古池を抱えこんだ、白壁の市街の尽きる所は
揚子江
(
ようすこう
)
の水に違いない。
長江游記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
草に
涵
(
ひた
)
され草を養っている水の集りが中央に二、三の細流を湛えて、雑魚や水すましの群れこそ見えないが、里の小川の
俤
(
おもかげ
)
を偲ばせて、
静
(
しずか
)
に山の影を浮べている。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
闇かと見ると、その行燈の消えた隙間から一面に白い水——みるみる漫々とひろがって、その岸には遠山の影を
涵
(
ひた
)
し、木立の向うに
膳所
(
ぜぜ
)
の城がかすかに
聳
(
そび
)
えている。
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
陰にして惡、闇くして邪なる事に從ふならば、いざ知らず、苟も然らざる限りは朝の張る氣の中に
涵
(
ひた
)
つて而して自己の張る氣を保つて事に從ひ務に服するを可とする。
努力論
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
冷いくらゐの涼味は茶屋が軒先の筧の水から湧いて、清水に
涵
(
ひた
)
した梨の味にも秋はもう深かつた。
箱根の山々
(旧字旧仮名)
/
近松秋江
(著)
入江に
近
(
ちかづ
)
くにつれて川幅次第に廣く、月は川面に其清光を
涵
(
ひた
)
し、左右の堤は次第に遠ざかり、
顧
(
かへりみ
)
れば川上は既に靄にかくれて、舟は何時しか入江に入つて居るのである。
少年の悲哀
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
男子
苛
(
いやしく
)
も志を立てて生活の戦場に
出
(
い
)
で人生に何等かの貢献を
試
(
こころみ
)
んと決したる上は、たとえ
腸
(
はらわた
)
九たび廻り、血潮の汗に五体は
涵
(
ひた
)
るとも野に於いて、市に於いて、
鋤
(
すき
)
に、
鍬
(
くわ
)
に、剣に
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
名にし負える荻はところ
狭
(
せ
)
く繁り合いて、
上葉
(
うわば
)
の風は静かに打ち寄する
漣
(
さざなみ
)
を砕きぬ。ここは湖水の
汀
(
みぎわ
)
なり。争い立てる峰々は残りなく影を
涵
(
ひた
)
して、
漕
(
こ
)
ぎ行く舟は遠くその上を押し分けて行く。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
自分が始めてこの根本家を尋ねた時、妻君が
頻
(
しき
)
りに、
鋤
(
すき
)
、
鍬
(
くは
)
等を洗つて居た
田池
(
たねけ
)
——其周囲には
河骨
(
かうほね
)
、
撫子
(
なでしこ
)
などが美しくその
婉
(
しを
)
らしい影を
涵
(
ひた
)
して居た
纔
(
わづ
)
か三尺四方に過ぎぬ田池の有つた事を。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
しまひにはさういふ意識のなかに自ら
涵
(
ひた
)
つてしまつたせいであらうか、日本軍艦数隻が沈没し、
伊豆
(
いづ
)
の大島が滅して半島の近くに新しい島が出来、
神聖
(
ハイリーゲ
)
江の島が全く無くなつてしまつたといふ
日本大地震
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
市助が立って、暗い台所で、何か水に
涵
(
ひた
)
していた。そして、持って来た。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
水盤のなかに、埃の吹いた拡大鏡を
涵
(
ひた
)
しながら。
希臘十字
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
「子供一人を取って別れるよりほかない。そして母と妹とを呼び寄せて、
累
(
わずら
)
いのない静かな家庭の空気に頭を
涵
(
ひた
)
しでもしなければ……。」
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
わが歩みは檜の日かげより丘のはづれの小亭へ、その
傍
(
かたはら
)
の径を下りて睡蓮科の生ひ
涵
(
ひた
)
れる小さき池のほとりへゆく。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
昼間その温泉に
涵
(
ひた
)
りながら「牢門」のそとを眺めていると、明るい日光の下で白く白く高まっている瀬のたぎりが眼の高さに見えた。差し出ている
楓
(
かえで
)
の枝が見えた。
温泉
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
神の光に
涵
(
ひた
)
っていた人間がはじめて太陽の光を発見し、ベンノー・ライフェンベルグが指摘するように、一九〇〇年代ゴッホ、ゴーガンによってそれが燃え切らされて後
芸術の人間学的考察
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
活栓
(
かっせん
)
と針を手早く添えて、中味の液体をシーソー式に動かすと、薬の残りを箱の中の瓶に返して、右手にアルコールを
涵
(
ひた
)
した脱脂綿と、
万創膏
(
ばんそうこう
)
を持ちながら薬局を出て来た。
笑う唖女
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
法衣
(
ころも
)
の裾を野路の露に染めつゝ、東西に流浪し南北に行きかひて、
幾干
(
いくそ
)
の坂に谷に走り疲れながら猶辛しともせざるものは、心を霊地の霊気に
涵
(
ひた
)
し念を浄業の浄味に育みて
二日物語
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
が、彼の思索はあまりに原始的で彼の動物的生活に
涵
(
ひた
)
っていたので、それは単なる物識りのそれより有望なものではあったが、人に伝えるに足るほど成熟することは稀であった。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
日の暮れ方にお増は独りで、
透
(
す
)
き
徹
(
とお
)
るような湯のなかに体を
涵
(
ひた
)
して、見知らぬ
温泉場
(
ゆば
)
にでも隠れているような安易さを感じながら、うっとりしていた。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
凝る氣を以て事に從ふは、譬へば氷を以て物と共に
寘
(
お
)
くが如しで、其の物能く幾干か變ぜんである。張る氣を以て事に從ふは、流水を以て物を
涵
(
ひた
)
すが如しで、物漸くに長大生育する。
努力論
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
巨大な
硝子筒
(
がらすとう
)
の中にピッタリと封じ
籠
(
こ
)
められて、強烈な薬液の中に
涵
(
ひた
)
されて、漂白されて、コチンコチンに凝固させられたまま、確かに、標本室の一隅に
蔵
(
しま
)
い込まれているに相違無い事を
一足お先に
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
現像液の中に自分もなかば
涵
(
ひた
)
っているといってもよい。
物理的集団的性格
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
水は音もしないで、静止したやうに星の影を
涵
(
ひた
)
してゐた。対岸には濛靄が
立罩
(
たちこ
)
めてどこを
見
(
み
)
ても
起
(
お
)
きてゐるやうな家はなかつた。電車の響きばかりが劇しく耳についた。
復讐
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
こうした見かけばかり恐ろしく、派手な内容の、薄ッペラなバラック町の気分に朝から晩まで
涵
(
ひた
)
っている新しい東京人の気持ちが、そうした影響を受けずにいられぬ事は誰しも想像が付く。
街頭から見た新東京の裏面
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
秩父より流るる隅田川の水笑ましげに我が影を
涵
(
ひた
)
せり。
知々夫紀行
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
現像液の中にすら、自分もが半分
涵
(
ひた
)
った思いである。
レンズとフィルム:――それも一つの性格である――
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
「いやね。」とお増はその手を引っ張ったが、心は寂しいあるものに
涵
(
ひた
)
されていた。蜜柑の匂いなどのする
四下
(
あたり
)
には、草のなかに虫がそこにもここにも、ちちちちと啼いていた。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
鳥打帽を買うにしても必要からでなく、只そういった気分に
涵
(
ひた
)
りたいために二円乃至四円を奮発するので、参考書を買う余裕はなくても、新流行の鳥打を買う銭はあるのが彼等の生活の特徴である。
街頭から見た新東京の裏面
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
涵
漢検1級
部首:⽔
11画
“涵”を含む語句
涵養
涵徳亭
包涵
浸涵
涵々
涵澹然
涵養物
茹涵
黄仲涵