栴檀せんだん)” の例文
近くに土橋がかかっており、その袂には栴檀せんだんの古い木があるので、その橋を栴檀橋というのだそうだ。僕にはその名称も気に入った。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのライラックの木の西に、まだ芽を出さない栴檀せんだん青桐あおぎりがあり、栴檀の南に、仏蘭西語で「セレンガ」と云う灌木かんぼくの一種があった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこまで、云いつづけているうちに、頭上にある栴檀せんだんの梢から、白い花弁はなびらが、その雪のように舞い落ち、滝人の身体はよほど埋まっていた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
北涼の法盛訳『菩薩投身餓虎起塔因縁経』に拠れば如来前身乾陀摩提国かんだまじこく栴檀せんだん摩提太子たり、貧民に施すを好み所有物一切を施し余物なきに至り
前の歌のつづきで、憶良が旅人の心に同化して旅人の妻を悼んだものである。おうちは即ち栴檀せんだんで、初夏のころ薄紫の花が咲く。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「よい子ではないか。のう藤吉郎、そちは何と見る。これは栴檀せんだんの香りがするぞ。わが家のむこにいたしてもよい程な」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、栴檀せんだんの樹の根に腰をおろし、窓の外から授業中の先生を眺めては、一人でにやにや笑っている。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
栴檀せんだんの木稲荷の絵馬売の老婆に託して、源之丞が射場通いの途中、そっと手渡して貰ったのであった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
これ彼がかつて培いたる栴檀せんだんの二葉が、今や議場の華と咲き出でたる喜びの余りである。昔街頭にマーブルをもてあそんだ貧児は、今や演説壇上満堂の視線を一身に集めている。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
香というのは、支那、印度、南洋あたりに産する名木を材料にしたもので、栴檀せんだんの木が長い間水に沈んで居たのは沈香と言い——これは年数によっていろいろ名称があります。
「閑話休題に願いまして、斯ういう具合に、偉人は和漢洋ともに幼少の頃のことを忘れません。普通の人間とは違っています。栴檀せんだんは二葉よりかんばしい。菊太郎君、さあ、どうだね?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
成程お勢はまだ若い、血気もいまだ定らない、志操もあるいは根強く有るまい。が、栴檀せんだん二葉ふたばからこうばしく、じゃは一寸にして人を呑む気が有る。文三の眼より見る時はお勢は所謂女豪じょごう萌芽めばえだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今の汝をそれに比べば獼猴さるの如くに劣りなんと答ふるに、天神はまた栴檀せんだんの木の頭尾もとすえ知れざるものをいだして、いづれのかたの根のかたにていづれのかた樹梢こずえの方ぞ、く答へよ、と問ひなじりぬ。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
われはこれ栴檀せんだんの林、虚空のひだの大浪
栴檀せんだんの実にひよ鳥や寒の雨 蘆文
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
栴檀せんだんの樹の蝉は啼きやまず
猟奇歌 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
あし田鶴たづよはひながゝれとにや千代ちよとなづけし親心おやごゝろにぞゆらんものよ栴檀せんだん二葉ふたば三ツ四ツより行末ゆくすゑさぞとひとのほめものにせし姿すがたはなあめさそふ弥生やよひやまほころびめしつぼみにながめそはりてさかりはいつとまつのごしのつきいざよふといふも可愛かあいらしき十六さい高島田たかしまだにかくるやさしきなまこしぼりくれなゐは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日が暮れかかっているけれども、庭はまだ明るいので、境界の青桐あおぎり栴檀せんだんの葉の隙間すきまから、西洋映画でよく見るところの抱擁ほうようの場面が見えた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝、俊三と二人で土手をあるき、栴檀せんだんの古木を見に行った。思ったほど大きな木ではなかった。木の陰に茶店があったが、中から女の人が出て来て
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかし、そこからは一歩一歩がたかく、それまで栴檀せんだんのあいだに麝香鹿じゃこうじかがあそんでいた亜熱帯雲南が、一変して冬となる。揚子江の上流金沙江の大絶壁。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
月支げっし国王名は栴檀せんだん罽昵吒けいじった、この王、志気雄猛、勇健超世、討伐する所摧靡さいひせざるなし、すなわち四兵を厳にし、華氏城を攻めてこれを帰伏せしめ、すなわち九億金銭をもとむ。
(これこそ、双葉ふたば栴檀せんだんだ)まったく、十八公麿の才能は、群をぬいていた。むしろ、余りにも、ほかの児童と、かけ離れ過ぎているくらいなのである。で児童のうちにも、嫉妬しっとはある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栴檀せんだんは二葉よりかんばしかったんですな」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三三 栴檀せんだんを二葉に
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
庭には紫の花をつけた大きな栴檀せんだんの樹があって、その樹の蔭のじめじめしたところに、雑草と交って薄荷はっかが沢山生えていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と河内房が引ッ提げて来た革袋から抜き出したのは、鉄の如く磨き澄ました、栴檀せんだん造りの無反三尺の木太刀、これぞ優婆塞うばそくが常住坐臥に身を離さぬ戒刀になぞらえて、作りなしたる凄い業物わざもの
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
テラスの葭簀張よしずばりの下へ出て見たが、雨のあとでひとしお青々としている庭の芝生の上に、白いちょうが二匹舞っており、ライラックと栴檀せんだんの樹の間の
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
栴檀せんだんかなにかの香木とみえ、微かににおう心地がする。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シュトルツ家との境界にある栴檀せんだん青桐あおぎりの葉はおびただしくしげって、その二階建ての洋館を半ばおおい隠していた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まあ、いい匂い。ねえ秀さん、これきっと沈香じんこうとか栴檀せんだんとかっていうものよ。あの方丈さまは、お生れは都で大きな糸屋の若旦那だったんですとさ。だから気がきいてるわね、こんなおみやげ一つにしてもさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空に高くとばされた栴檀せんだん木太刀きだち
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)