えい)” の例文
旧字:
彼はとても長いことチチコフの手を握りしめながら、とても熱心に、是非いちど自分の村へも御来駕ごらいがえいを賜りたいと懇願した。
一番繁く出入して当人たしか聟君むこぎみ登第とうだいえいを得るつもり己惚うぬぼれてゐるのが、大学の学士で某省の高等官とかを勤める華尾はなを高楠たかくす
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
喜憂栄辱は常に心事にしたがって変化するものにして、そのおおいに変ずるにいたっては、昨日のえいとして喜びしものも、今日はじょくとしてこれをうれうることあり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
稲見の母親はおえいと云って、二三年ぜんの疫病に父母共世を去って以来、この茂作と姉弟二人、もう七十を越した祖母の手に育てられて来たのだそうです。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先づ青軒翁が紹介状を呈出し面談のえいを得ん事を請願せしが、或時は不在或時は多忙或時は不例ふれい或時は来客中とばかりにて遂に望の叶ふべき模様もなかりけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
えいさんは了輔の耳に口を寄せて、何か囁いて居る。了輔は目を象の鼻穴程にみはつて熱心に聞いて居る。どちかと云へば性来太い方の声なので、返事をするのが自分にも聞える。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其処そこべるなよ、かへつててからべなさいな。小「へえ、それでもこれを置いてまゐりますと、えいどんだのぶんどんがみんなべてしまひます。主「それでは何処どこれない所へかくして置け。 ...
日本の小僧 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
姉のおせつは外出した時で、妹のおえいはうきを手にしながら散乱ちらかつた部屋の内を掃いて居た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それからそれへとご吹聴ふいちょう下され、にぎにぎしくおはやばや、ぞくぞくとご光来こうらい観覧かんらんえいをたまわらんことを、一座いちざ一同になりかわり、象の背中せなかに平にしておんねがいたてまつるしだぁい。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
前妻宝生氏には子徴、むすめえいがあつて、栄は鳥取の医官田中某に嫁した。継室柴田氏にはむすこそんむすめみきがあつて、幹は新発田の医官宮崎某に嫁した。按ずるに栄の嫁する所の田中氏は棠軒の生家である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
むしろ御陪食のえいをご辞退申し上げんとしたものもあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして、かれのことばは、まま、お取上げのえいに会う。
よく経綸けいりんの業をべ、めぐりのぼ輔弼ほひつえい
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ついでその舞台開ぶたいびらきゆうべにも招待を受くるのえいに接したのであったが、褊陋へんろう甚しきわが一家の趣味は、わたしをしてその後十年の間この劇場の観棚かんぽうに坐することを躊躇ちゅうちょせしめたのである。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さき「はい、誰だえ、お入りよ、えいどんかえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
えい。——またせいすい
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現代思潮の変遷はその迅速なること奔流ほんりゅうもただならない。あしたに見て斬新となすものゆうべには既に陳腐となっている。槿花きんかえい秋扇しゅうせんたん、今は決して宮詩をつくる詩人の間文字かんもじではない。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)