“柔順(すなお)” の例文
ああ、うつくしい白い指、結立(ゆいた)ての品のいい円髷(まるまげ)の、情(なさけ)らしい柔順(すなお)な髱(たぼ)の耳朶(みみたぶ)かけて、雪なす項(うなじ)が優しく清らかに俯向(うつむ)いたのです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弟は柔順(すなお)にうなずいた。寝台の枕元に掛けたタオルに薬鑵の湯を器用に流しかけて、涙に汚れた顔をゴシゴシと拭い初めた。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつも柔順(すなお)に言うことを聞くはずのムクが、帰れと言われても今宵はそれを聞き分けずに、お玉が歩きだすとムクはやっぱり後をついて来るのでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時としては、いくら黙言の柔順(すなお)な清吉でも堪(こら)え切れんで顔を真赤にして拳(こぶし)を堅(かた)めて相手を睨むことがある。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女は何方(どちら)かといえば温順(おとなし)過ぎる位であった。寧(むし)ろ陰気な女であった。しかし柔順(すなお)で正直で骨を惜まずに能く働いて、どんな場合にも決して忌(いや)そうな顔をしたことはなかった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
柔順(すなお)な足も今は自由にならなくなって、彼女は何か力と頼むべき柱をさがしていました。
笹村は、女に対する自分の態度の謬(あやま)っていることが判るような気がした。お銀に柔順(すなお)な細君を強(し)いながら、やはり妾か何かを扱うような荒い心持が自分にないとも言えなかった。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
目が開(あ)きかけた今の若い婦人は、今の教育家の教などに屈従するほどに柔順(すなお)でありませんから、学校でこそ教師の前で良妻賢母主義に甘んじたような顔附を致しておりますけれど
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
皆さんの御意見でさえ柔順(すなお)にいう事をきかないんですから何うで駄目でしょうけれど
柔順(すなお)なお心に付け込んで、いろいろのことを聞き出したあげく、烏組のお紋さんへ耳打ちし、仁右衛門さんやら山影さんやら、そうしてあなた方お二人までも、網に引っかける仲立ちを
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
欲をかわくな齷齪(あくせく)するなと常々妾に諭(さと)された自分の言葉に対しても恥かしゅうはおもわれぬか、どうぞ柔順(すなお)に親方様の御異見について下さりませ、天に聳(そび)ゆる生雲塔(しょううんとう)は誰々二人で作ったと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
狩野氏の家を出てから山端の平八茶屋で午飯を食うて此の宿の門前に来るまでは如何(いか)にも柔順(すなお)な子供らしい態度の漱石氏であったが、一度宿屋の門をくぐって女中たちが我らを出迎えてからは
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
紳士は、柔順(すなお)にモジ/\しながら立ち上った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と冴(さ)えた声で手招きをしながら、もう石橋を飜然(ひらり)と越えて、先へ立って駆出すと、柔順(すなお)な事は、一同ぞろぞろ、ばたすたと続いて行く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時には太郎もシクシク泣いていたが、元来柔順(すなお)な児(こ)だったので、何のコダワリもなく彼の言葉を受け入れて、心からうなずいていたようであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
丸山の隣へ引っ越して行ってから、この女とお庄はじきに近しい間(なか)になった。女は痩せぎすな尫弱(ひよわ)いような体つきで、始終黙ってはずかしげにしていたが、表に見えるほど柔順(すなお)ではなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「御意」と集五郎はまた揶揄的に、「どうだな、柔順(すなお)に渡されては」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
面(おもて)を伏せて柔順(すなお)に答えました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お見せ。」……とも言はず、女太夫(おんなたゆう)が、間近(まぢか)から手を伸(のば)すと、逆らふ状(さま)もなく、頬を横に、鬢(びん)を柔順(すなお)に、膝(ひざ)の皿に手を置いて
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それこそ見付け物といってもいい位に柔順(すなお)で、無口で、俺(水夫長)の目顔(めづら)ばかり見ながら、スラスラと立ちまわるのだから、薄気味の悪いこと夥しい。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
柔順(すなお)に山吹は云ったものである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と声も気も軽(かろ)う、衝(つ)と身を反(そら)して歩(あゆみ)を向けた。胸に当てたる白布には折目正しき角はあれど、さばいた髪のすらすらと、霜枯すすきの葉よりも柔順(すなお)。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども太郎は生れ付きの柔順(すなお)さで、正直に母親の遺言を守って、いくら友達に誘われても線路を歩かなかったらしく、毎日毎日国道の泥やホコリで、下駄(げた)や足袋(たび)を台なしにしていた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこで柔順(すなお)に溜息をした。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふさふさの簪(かんざし)を前のめりに挿して、それは人柄な、目の涼しい、眉の優しい、口許(くちもと)の柔順(すなお)な、まだ肩揚げをした、十六七の娘が、一人入っていたろう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お絹が柔順(すなお)に、もの軟(やわらか)に取上げた、おでんの盆を、どういうものか、もう一度彦七がわざとやけに引取って
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まあ、忍(ま)けときねえな。それを、お前、大先生に叱られたって、柔順(すなお)に別れ話にした早瀬さんも感心だろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何かは存ぜぬが夫人(おくさま)の御意じゃ、柔順(すなお)にお受け申して退散せい。」と御家老真四角なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(柔順(すなお)なものじゃ、や、よう肯(き)かしゃれたの……おおおお。)と云って臀(しり)を動かす。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの婆様(ばあさん)もさすがだの、わざと私が殺してみせて、活(い)かして光子様(さん)を棺に入れて駿河台へやったのは、隠居がいくら強情でも、柔順(すなお)に宅(うち)へ入れるであろうと思った思案は浅かったよ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爺どのは悚然(ぞっ)として、はい、はい、と柔順(すなお)になって、縄を解くと、ずりこけての、嘉吉のあの図体が、どたりと荷車から。貴女(あなた)は擡(もた)げた手を下へ、地の上へ着けるように、嘉吉の頭を下ろさっせえた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これにも娘は熟(じっ)として、柔順(すなお)に身をまかせていたのである。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柔順(すなお)に抱かれて寝る気は無いか。と嘲弄(ちょうろう)されて切歯(はがみ)をなし
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘が、柔順(すなお)に尋常に会釈して
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と柔順(すなお)に返事する。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と柔順(すなお)だっけ。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)