日増ひまし)” の例文
花を枕頭まくらもと差置さしおくと、その時も絶え入っていた母は、呼吸いきを返して、それから日増ひましくなって、五年経ってから亡くなりました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに近頃また日増ひましに註文が増えるというのは、何も連中は体裁をつくる仕儀ばかりじゃなくって、脛に傷持つ方々が意外の数だというんです。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
しかし町子さんへの思慕が日増ひましに募って来た。面影を浮べると周囲が花盛りのように明るくなる。つい惹きつけられて、尾崎君のところへ足が向く。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『ハ。忠一さんは日増ひましに悪くなる様ですね。今日も権太といふ小供が新らしく買つて来た墨を、自分の机の中に隠して知らない振してゐたんですよ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
社会は日増ひましに進歩する。電車は東京市の交通を一変させた。女学生は勢力になって、もう自分が恋をした頃のような旧式の娘は見たくも見られなくなった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それとも一方いつぱうには小説雑誌の気運きうん日増ひましじゆくして来たので、此際このさいなにか発行しやうと金港堂きんこうどう計画けいくわくが有つたのですから、早速さつそく山田やまだ密使みつしむかつたものと見える
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その証拠には、お通は日増ひましに血色をあらため、今では机にって坐っていられるくらいにまでなっている。——一度はどうなるかと、城太郎すら心配したほどであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからは、毎日まいにち毎日まいにちことばかりかんがえていたが、いくらしがっても、とてべられないとおもうと、それがもとで、病気びょうきになって、日増ひましせて、あおくなってきます。
そのあくる日も申分のない天気であった。霜は日増ひましに深くなって来るが、朝の日影はうららかであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
河水は、日増ひましに水量を加えて、軽い藍色あいいろの水が、処々の川瀬にせかれて、淙々そうそうの響を揚げた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『これは/\芋の王様、かう日増ひましに芋の葉が繁つていつては、しまひには、私達の呼吸いきがつまつてしまひます、いつこくも早く、世界中の芋の葉を、枯らしていただきたい。』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
くだきて我が妻のやまひ平癒へいゆ成さしめ給へと祈りしかば定まりある命數めいすうにや日増ひましつかおとろへて今は頼み少なき有樣に吉兵衞は妻の枕邊まくらべひざさしよせ彼是かれこれと力をつけ言慰いひなぐさめつゝ何かべよくすり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聖賢の言は、生活の虚飾として用いられ、いたずらに神仙の迷信のみ流行し、病人は高価な敗鼓皮丸はいこひがんを押し売りされて、日増ひましに衰弱するばかりなのだ。この支那の民衆の現状をどうする。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼の我儘わがままには日増ひましに募った。自分の好きなものが手にらないと、往来でも道端でも構わずに、すぐ其所そこすわり込んで動かなかった。ある時は小僧の脊中せなかから彼の髪の毛を力に任せてむしり取った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抱へるゆゑ何事も商賣向にあかるく繁昌はんじやうなすに付て小兵衞は女房をもたんと思ひ是も工風くふうして御殿女中の下りを尋ね宿の妻として都合つがふよく日増ひましに内ふくと成たりけり夫に引替向ふ見ずの三吉は三百兩の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)