扮装みなり)” の例文
旧字:扮裝
嫁や娘たちが、海辺や湯治場で、暑い夏を過すあいだ、内儀さんは質素な扮装みなりをして、川崎の大師や、羽田の稲荷いなりへ出かけて行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
周囲には二組ばかりの客がいるだけなので、そうしてその二組は双方ともに相当の扮装みなりをした婦人づれなので、室内は存外静かであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、充分の未練を残し彼が邸へ帰り着いたのはその日もとっぷり暮れた頃であったが翌日は扮装みなりも厳重にし早朝から邸を出た。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下枝様がああいう扮装みなりのまま飛出したのなら、今頃は鎌倉中の評判になってるに違いありません。何をいおうと狂気きちがいにして引張ひっぱって参ります。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな風に致しましたら、わたくしはやっぱり段々に扮装みなりなんぞは構わなくなりまして、化粧おしまいも致さないようになりますのでございましょう。
職員室には、十人ばかりの男女をとこをんな——何れもきたな扮装みなりをした百姓達が、物におびえた様にキヨロ/\してゐる尋常科の新入生を、一人づゝ伴れて来てゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夜更よふけから暁方あけがたへかけて、こうして扮装みなりを変えて毎夜のように尋ねてみるが、ついぞ出会でっくわし申さぬ。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雀のやうに質素じみ扮装みなりをして、そしてまた雀のやうにお喋舌しやべりをよくするものだとばかし思つてゐるむきが多いやうだが、女流教育家といつた所で満更まんざらそんな人ばかしで無いのは
乞食らしいきたな扮装みなりではございません。銅版画どうばんえなんぞで見るような古風な着物を着ているのでございます。そしてそのじいっと坐っている様子の気味の悪い事ったらございません。
現われた武士は浪人らしくて、尾羽おは打ち枯らした扮装みなりであって、月代さかやきなども伸びていた。朱鞘しゅざやの大小は差していたが、鞘などはげちょろけているらしい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
美人は優しき眼にてじっとれば、いかさまかかる遊戯品は知らぬも道理の扮装みなりなり。不便ふびんなものよと思うにぞ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羽織が大概あらまし乾いた頃に女教師が来た。其の扮装みなりを見上げ見下して、目賀田は眼を円くした。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
労働者の本田捨松は、ちょいと小綺麗の扮装みなりをして、道頓堀の大きな珈琲カフェー店で、うまそうに料理を食べていた。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今朝東京なる本郷病院へ、呼吸いき絶々たえだえ駈込かけこみて、玄関に着くとそのまま、打倒れて絶息したる男あり。年は二十二三にして、扮装みなりからず、容貌かおかたちいたくやつれたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其巡吉は勿論、の児も何の児も汚ない扮装みなりをしてゐて、くびから手足から垢だらけ。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
編笠を冠ったままの、みすぼらしい扮装みなりの浪人であったが、小判小粒とりぜ、目紙めがみの三へ張ったところ、それが二回まで受け、五両が百二十五両になった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
え、爺さん、聞きゃおめえの扮装みなりが悪いとってとがめたようだっけが、それにしちゃあ咎めようが激しいや、ほかにおめえなんぞ仕損しぞこないでもしなすったのか、ええ、爺さん
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し下がって地にひざまずき、並んでいるのは多勢のモカ、いずれも身綺麗な扮装みなりをし、持っていた病気など癒ったのであろう、健康つよそうな様子を見せている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
財産持てりというには似で、継母なる人の扮装みなりの粗末さよ。前垂まえだれも下婢と同じくしたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夕方のことであるが、艶かしい十八九の乙女おとめが一人、まことに上品な扮装みなりをして、魚屋方へ訪れて来た。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧のえんな姿で、電車の中から、さっ硝子戸がらすどを抜けて、運転手台にあらわれた、若い女の扮装みなりと持物で、大略あらましその日の天気模様が察しられる。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは沢山おりますとも。それに扮装みなり贅沢ぜいたくですよ。衣裳はお召し。帯は西陣。長襦袢ながじゅばんは京の友禅縮緬ゆうぜんちりめん。ご婦人方はお化粧をします。白粉おしろいべにに匂いのある油……」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
扮装みなりなぞは気がつかず、洋傘かさは持っていたようでしたっけ、それをしていたか、畳んだのをいていたか、判然はっきりしないが、ああ似たような、と思ったのは、その行方が分らんという一人。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先に立った武士は二十一、二、後から行く武士は二十二、三、いずれも旅の浪人と見えて、扮装みなりは粗末ではあったけれど体に五分の隙もない。心得ある武士と思われた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と答うれば、戸をひらきて、医師とともに、見も知らぬ男り来れり。この男は、扮装みなり、風俗、田舎漢いなかものと見えたるが、日向ひなたまばゆき眼色めつきにて、上眼づかいにきょろつく様、不良よからやからと思われたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だがいったいどうしたんだ! こんな早朝に門附けとは? 扮装みなりの貧しい若者である。杖を持っているから盲目めくららしい。俄盲目にわかめくらに相違ない。感が悪そうにひろって行く。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は年の頃二十四、五、都風みやこふうに髪をい当世風の扮装みなりをし色白面長の顔をした女好きのする男であったが、眼に何んとなく剣があり、唇が余りに紅いのは油断の出来ない淫蕩者いんとうものらしい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
貧乏神の扮装みなりをした坂東三津太郎はこう云うと元気を起こして立ち上がった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
扮装みなりは堅気の商人風、年の頃は三十前後、しかし商人ではなさそうだ。赫黒い顔色、釣上がったまなじり、巨大な段鼻、薄い唇、身長五尺七八寸、両方の鬢に面摺れがある。変装した武士に相違ない。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
手甲脚半腹掛け姿、軽快至極の扮装みなりである。一同お揃いの姿である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いやいやいつもは二人じゃそうな。一人は若衆、一人はやっこ、紅縮緬で覆面して夜な夜な現われるということじゃ。もっとも時々若い女がそれと同じような扮装みなりをして仲間に加わるとは聞いているが」
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いやお前さんの扮装みなりと来ては、豪勢な評判でございますよ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さて上人の扮装みなりだが、何んとやつしたらよかろうのう」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(あんな扮装みなりをした人間は、お供衆の中にはいなかった)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
翌日紋太郎は扮装みなりを整え専斎のやしきへ挨拶に来た。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
威勢のいい江戸っ子で、扮装みなりの様子が船大工らしい。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)