ぱら)” の例文
旧字:
さらに下のほうでは、ぱらったキャベツが、驢馬ろばの耳を打ち振り、上気のぼせたねぎが、互いに鉢合せをして、種でふくらんだ丸い実を砕く。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
吾輩が断髪令嬢の御秘蔵の犬と知らずにぱらったのも偶然なら、その犬を断髪令嬢の恋敵こいがたきの医学士の所へ持って行って売付けたのも偶然だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かねてから独逸人がしみつたれで、慾深で、有る程のものはぱらはずにはられない癖を知つてゐるので、てんでに財産をかくまふのに智慧を絞つたものだ。
本堂ほんどうの中には蝋燭そうそくが明るくともっていましたが、盗賊とうぞくどもはさけぱらって、そこにごろごろねむっていました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
通りがかりのぱらいが、酔いもさめきった青い顔をして、次第に崩れゆく東京ビルを呆然ぼうぜんと見守っていた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お買いなさいと催促さいそくをする。金がないと断わると、金なんか、いつでもようございますとなかなか頑固がんこだ。金があつても買わないんだと、その時は追っぱらっちまった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と打ってかゝる処を、ひッぱらって腕を打つ、打たれて三嶋安は斬られたと心得、キャッと云いさま同じく細道へ逃げ込んでしまうのを、追い掛けもせず跡を見送りながら
伝平はどうかすると、無理にぱらって、高木の家へそんなことを言って行くことがあった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
手っぱらいに日本の雑貨を買い入れて、こちらから通知書一つ出せば、いつでも日本から送ってよこすばかりにしてあるものの、手もとにはいささかのぜにも残ってはいなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
短躯小身たんくせうしんなりといへども、かうして新聞しんぶんから出向でむうへは、紋着もんつきはかまのたしなみはなくてなるまいが、ぱらつた年賀ねんがでなし、風呂敷包ふろしきつゝみ背負しよひもならずと、……ともだちはつべきもの
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わしを始め、この中には、強盗強姦、追剥おいは火放ひつけ、ありとあらゆる罪を犯した兇悪な人間もいるが、その中へ間違ってまぎれ込んで来た猿は、まだぱらい一つろくに知らない初心うぶな奴だった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かっぱらいがはいって、内玄関の下駄箱からお靴を持って行きました」
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どろのやうにぱらはせた兵士へいしらを御用船ごようせんみ込んでおくさうと
前の夜、あなたに言い足りなかった口惜くやしさで、めずらしく朝から晩まで飲んでいました。そのうちぱらってしまって、船の酒場に入ってくる誰彼だれかれなしを取っつかまえては、くだをまきさかずきいていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
だから今度はなるべく長くくわしく話してもらおうと思って、ぱらいのあとから通りかかったお婆さんの傍へ寄って、事情わけを話して身の上話しを聞かしてくれと頼んだ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
突放つきはなされて、安兵衞も伊兵衞も悦びまして、栗林の間へ逃げ込みましたが、吉原土手で仙太郎に逢った侍は心有るものゆえ、ぱらって逃げましたが、国分の束は心がないから
「一体、何をぱらったんだね?」
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
コック部屋に無けあ船長室に在る筈だ。そいつをぱらって来い。なぐられるもんか。愚図愚図ぐずぐずかしたら俺が命令いいつけたと云え。船長おやじには貸しがあるんだ。……行って来い……。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云いながら袖をぱらって雪踏せったを脱ぎ捨て、跣足はだしの儘駈け出す。