心願しんがん)” の例文
しかし、この、「長い黒の外套がいとう」を着て闇黒あんこくむ妖怪は、心願しんがんのようにその兇刃きょうじんを街路の売春婦にのみ限定してふるったのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そういう冷淡な人と仲間になって、祭りをいとなんでも心願しんがんがかなうだろうかと、あやぶむ者の多くなったのも自然である。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中途で止めては心願しんがんが破れると云ってお近は承知しないばかりか、却って幸之助に迫って、お冬らの警戒を命じた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一々いちいち女の名と、亥年いどし午年うまどし、幾歳、幾歳、年齢とがりつけてございましてな、何時いつの世にか、諸国の婦人おんなたちが、こぞって、心願しんがんめたものでございましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
省作が永くわずらった時などには、母は不動尊に塩物断しおものだちの心願しんがんまでして心配したのだ。ことに父なきあとの一人ひとりの母、それだから省作はもう母にかけてはばかに気が弱い。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なにひとつ心願しんがんなんぞのありそうもない、五十をした武家ぶけまでが、雪駄せったをちゃらちゃらちゃらつかせてお稲荷詣いなりもうでに、御手洗みたらし手拭てぬぐいは、つねかわくひまとてないくらいであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
外国のひげづらどもが大砲をはなたうが地雷火を仕掛しかけうが、びくとも致さぬほどの城壁に致したき心願しんがん有之、しかも生を助けてこの心願を成就じょうじゅせしめんとする大檀那おおだんなは天下一人もなく
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
猛獣や毒蛇どくじゃおびやかされることもあった。夜は洞穴ほらあな寂寞せきばくとして眠った。彼と同じような心願しんがんを持って白竜山へ来た行者の中には、麓をさまようているうちに精根しょうこんが尽きて倒れる者もあった。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はいあのわしの村の鎮守様は八幡様はちまんさまでごぜえます、其の別当は真言宗で東覚寺とうかくじと申します、其の脇に不動様のお堂がごぜえましてわたくし両親ふたおやが子がえって其の不動様へ心願しんがんを掛けました処が
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの人はいったいどんな心願しんがんがあるのだろうかと、たがいに知らぬ者が、ただおりおり顔を合わせることになっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふもとからこうやって一里ばかりも来たかと思うと、風も清々すがすがしい薬のがして、何となく身にむから、心願しんがんがあって近頃から読み覚えたのを、となえながら歩行あるいているんだ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妹は長崎に居ります間に、唐人屋敷の南京なんきん人から或る秘密を伝えられたそうで、暗夜に白い蝶を飛ばして千人の眼をおどろかせれば、いかなる心願しんがん成就じょうじゅすると云うのでござります。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おがみたさの心願しんがんほかならならなかったのであるが、きょうもきょうとて浅草あさくさの、このはるんだ志道軒しどうけん小屋前こやまえで、出会頭であいがしらに、ばったりったのが彫工ほりこうまつろう、それとさっしたまつろうから
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
生は国歌を破壊し尽すのかんがえにては無之、日本文学の城壁を今少し堅固に致したく、外国のひげづらどもが大砲をはなとうが地雷火を仕掛けようがびくとも致さぬほどの城壁に致したき心願しんがん有之
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
薬研堀やげんぼり不動様ふどうさまへ、心願しんがんがあってのかえりがけ、くろじょうえりのかかったお納戸茶なんどちゃ半合羽はんがっぱ奴蛇やっこじゃそうろうごのみにして、中小僧ちゅうこぞう市松いちまつともにつれた、紙問屋かみどんや橘屋たちばなや若旦那わかだんな徳太郎とくたろう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)