すこ)” の例文
ヒノキは山中に生ずる常緑の喬木で、多く枝を分ち葉は小形で小枝の両側に連着し、緑色で下面にすこしく白色を有する事がある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
すこし風が吹いて土塵つちぼこりつ日でしたから、乾燥はしゃいだ砂交りの灰色な土をふんで、小諸をさして出掛けました。母親は新しい手拭てぬぐいかぶって麻裏穿あさうらばき
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
海中に産す、形蚌のごとくにして大なり、殻薄くして砕けやすく色黒し、挙げて日に映ずればすこしく透いて緑色なり。
東坡巾先生は叮嚀ていねいにその疎葉そようを捨て、中心部のわかいところをえらんで少しべた。自分はいきなり味噌をつけて喫べたが、すこしくあまいがめられないものだった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしは初めにはかに紀行の此段を読んで、又すこしく伊沢氏が曾て山陽をやどしたと云ふ説を疑はうとした。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ここにさぐりここにあがなひ、これを求めて之を得たり、すこしくえらむに稗官小説はいくわんせうせつを以てし、実をひろひ、疑ひき、皇統を正閏せいじゆんし、人臣を是非し、あつめて一家のげんを成せり。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日も庭の百日紅さるすべりの梢に蛇が居る。何処かの杉の森でふくろがごろ/\のどを鳴らして居る。麦が収められて、緑暗い村々に、すこしの明るさを見せるのは卵色の栗の花である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
仰せの通り『安政絶句』中に相洩あいもらし候にてすこしく野心を相挟み、陶奴推刃とうどすいじん之気味無きにしもあらず。誠に小量といいつ可し矣。一体軽薄の人物にて心も雲の如く翻覆定り無く候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一七徒弟とてい友どちあつまりて嘆き惜しみけるが、只一八心頭むねのあたりのすこし暖かなるにぞ、一九しやと二〇居めぐりて守りつも三日をにけるに、手足すこし動き出づるやうなりしが
氏郷に毒を飼ったのは三成のざんに本づくと、蒲生家の者は記しているが、氏郷は下血を患ったと同じ人が記し、面は黄に黒く、項頸うなじかたわら、肉少く、目の下すこ浮腫ふしゅ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしはすこしくこれに名づくる所以に惑ふ。俚言の無頓著は此事を指すに宜しきが如くである。しかし此語には稍指す所の事の形式を取つて、其内容を遺す憾がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ここにおいてか獣すなわち啖うその中地ところ土および諸草木すこしく絳色こうしょくを帯び血染のごとし、人その地をむ者芒刺いばらを負う、疑うと信ずるとをいうなく、悲愴せざるはなしと出づ。
ことに寝起の時の御顔色は、いつすこし青ざめて、老衰おいおとろえた御様子が明白ありありと解りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暮れてから血が少し下降して、即ち腦は極すこしく貧血する。試みに夜間すや/\と美睡せる健康の童子の額に手を觸れて見よ、必らず清涼である。そして身體は温烘あたゝかである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
一夜大蜥蜴燈の油を吸いくしたちまち消失するを見、あやしんで語らずにいると、明日王曰く、われ昨夜夢に魔油を飽くまで飲んだと、嫗見しところを王に語るに王すこしくわらうのみとあれば
火を入れるところまで見届けて、焼場から帰つた後、丑松は弁護士や銀之助と火鉢を取囲とりまいて、扇屋の奥座敷で話した。無情つれない運命も、今は丑松の方へ向いて、すこし笑つて見せるやうに成つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ここおいて才子は才をせ、妄人もうじんもうほしいいままにして、空中に楼閣を築き、夢裏むりに悲喜をえがき、意設筆綴いせつひってつして、烏有うゆうの談をつくる。或はすこしくもとづくところあり、或は全くるところ無し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)