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幻翁
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げんおう
三十七
年九
月十四
日、
幻翁望生の
二人と
共に
余は
馬籠に
行き、
茶店に
荷物や
着物を
預けて
置き、
息子を
人夫に
頼んで、
遺跡に
向つた。
貝層は
極めて
淺いが、
其下に
燒土の
層が
有つて、
其中に
少からず
破片がある。
幻翁の
言に
由ると、
香爐形の
出た
層と
同一だといふ。
同月二十八
日には、
幻翁玄子と
余との三
人で
出掛けた。
今日は
馬籠方で
街道を
左に
曲つた
小徑の
左手で、
地主も
異なるのである。
已むを
得ず、
松の
東面の
方に
坑を
開かうとして、
草原を
分けて
見ると、
其所に
掘り
掛けの
小坑がある。
先度幻翁が
試掘して、
中止した
處なのだ。
右端を
玄子。それから
余。それから
幻翁。それから
左端を
望生。これで
緩斜面を
掘りつゝ
押登らうといふ
陣立。
東皐子はそれを
聞いて、
手紙で『
思ひ
直して
來る
氣は
無いか
鳥も
枯木に二
度とまる』と
言つて
寄越す。
幻翁もすゝめる。
罵りながらも
實は
行きたいので、
又出掛ける。
相變らず
何も
無い。