屏息へいそく)” の例文
兵馬の力をもって政権を取らんと欲するものはこの時をもってほとんど屏息へいそくせり。これと同時に政論はほとんど全国に延蔓するに至る。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
多少は冒す場合があるでしょう。その場合には冒されたものが、屏息へいそくし得るように、冒す方に偉大な特色がなければならぬのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その武田も長篠ながしのの一敗に屏息へいそくし、西国の毛利も、このところ一戦一退のみをつづけ、加うるに元就もとなり以来の保守主義もあるので、果たして
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後本紙上に於て屡々しばしば報ぜし通り、××協商が行悩みとなり、吾国の国防と外交が極度の孤立屏息へいそく状態に陥りおりたる折柄
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
京都の市中は、今や勤皇の志士は全く屏息へいそくして、所司代の役人や、会津桑名の藩士、さては新選組の浪士たちが、肩で風をきつて、闊歩してゐる。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
舟人はを棄てゝ、手もて水をかき、われ等は身を舟中に横へしに、ララは屏息へいそくしてきびしく我手を握りつ。暫しありて、舟は大穹窿の内に入りぬ。
……縁の柱にって、この有様を屏息へいそくしながら見ていたさえは、そのとき崩れるように其処そこひざをついてしまった。
彩虹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「黒八、十とこれでよろしい。十四までの別れ申し分なしと。白を一ぐう屏息へいそくせしめ、外に向かって驥足きそくを伸ばす。この作戦われながらよいて。……」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それが、瓶口は(以前瓶口という芸名ではなかった。)今はエンコで一流の芸人になり、末弘は落ちて、——「惚太郎」の二階の二畳間に屏息へいそくしている。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
肉感はすべて心の恍惚こうこつの力の下に屏息へいそくしている時において、天使のごとき純潔なマリユスは、コゼットのすそをようやくくるぶしのところまでまくることよりも
肉体に勇気が満ちてくれば、前途を考える悲観の観念もいつしか屏息へいそくして、愉快に奮闘ができるのは妙である。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
吾輩屏息へいそくすれば逆焔も屏息しようが、吾輩ふたたび勃興すれば逆焔もふたたび勃興する、いく度も同様なり。
浪士らの勢いのさかんな時は二十里ずつの距離の外に屏息へいそくし、徐行逗留とうりゅうしてあえて近づこうともせず、いわゆる風声鶴唳ふうせいかくれいにもきもが身に添わなかったほどでありながら
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
内々はごっつりと手強くアテテ屏息へいそくさせるような、シッカリした者を必要とするのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうしますと此度は十二三日頃に中央新聞に出た、「屏息へいそくせる新しい女」といふ題の下に書かれた青鞜社の記事は滅茶々々なものでした。いゝかげんにこしらへ上げたものです。
そして約五時間の後に辛うじて天幕テントを張り終わったころ、可憐かれんな小品的野営地はもうもうたる雨足のうちにすっかり屏息へいそくしてしまったのである。しかし野営地まではともかく道はあった。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
今迄屏息へいそくして居た高輪田は、螺旋らせんにでも跳ねられたかの様に飛び上って爾して情ないと云う声で「是が何で浦原嬢の死骸でない事は有りません、無事で居たなら今頃は私の妻ですのに」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
勘次かんじランプのひかりたゞひどひかるのみで一ごんもなく屏息へいそくしてしまふのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
代匠記では鹿鳴間沈カナルマシヅミで、鹿の鳴いて来る間に屏息へいそくして待っている意に取ったが、或は、「か鳴る間しづみ」で、わなに動物がかかって音立てること、鳴子なるこのような装置でその音響を知ることで
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
禁じがたく候えどもけっして女子の現状に屏息へいそくせず艱難かんなんして一路の光明を
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
... 天下に主張する時代が来たら外の優等生や先輩の不誠実家はたちま屏息へいそくするに至るだろう」妹「してみると末はなかなか有望なお方ですね」兄「ウム、だから和女おまえいてイヤと言わなければ大原と親類になってもいい」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
みている人すら屏息へいそくして手に汗を握るという。
屏息へいそくせざるを得なくなります。
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
空しく恨を呑んで屏息へいそくせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
されど此等の石は或は再び坑中に沒し、或は灰の丘に沿ひてころがり下り、復た我等の頭上に落つることなし。われは心裡に神を念じて、屏息へいそくしてこれを見たり。
そして圧迫をもって一つの思想を屏息へいそくせしむることにいかなる危険があるかを少しも見なかった。
「そうよ。文学士のように二十円くらいで下宿に屏息へいそくしていては人間と生れた甲斐かいはないからな」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「わが蜀の先帝には、常々、蛮王蛮王と汝をばれて、汝に目をかけ給うたこと、一通りでなかった。さるを恩を忘れて魏と通じ、魏が屏息へいそくするや、また自ら無謀の乱をなすとは何事か」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸司諸役ことごとく更替して、大老の家の子郎党ともいうべき人たちで占められている。驚くばかりさかんな大老の権威の前には、幕府内のものは皆屏息へいそくして、足をかさねて立つ思いをしているほどだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われは心裡しんりに神を念じて、屏息へいそくしてこれを見たり
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
その始めて現はるゝや、萬客屏息へいそくしてこれを仰ぎたり。その態度、そのおごそかなること王者の如くにして、しかもかろらかに優しき態度には、人も我もたゞちに心を奪はれぬ。
所詮しょせんこのままに屏息へいそくすべき討幕運動とは思われなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ごもっともと屏息へいそくしている訳には行くまいと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「敵はすっかり屏息へいそくした」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)