小鍋こなべ)” の例文
友染いうぜんきれに、白羽二重しろはぶたへうらをかさねて、むらさきひもくちかゞつた、衣絵きぬゑさんが手縫てぬい服紗袋ふくさぶくろつゝんで、そのおくつた、しろかゞや小鍋こなべである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
卯平うへいせまいながらにどうにか土間どまこしらへて其處そこへは自在鍵じざいかぎひとつるしてつるのある鐵瓶てつびんかけたり小鍋こなべけたりすることが出來できやうにした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
誰かそつとどんぶり小鍋こなべふたを開けて見た形跡のあつた日は、私はひどく神経を腐らした。そこにも、こゝにも、哀れな、小さい、愚か者の姿があつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
鏡台の上の石鹸せっけんとタオルとを持って階下したへ降りて行くと、男はとこえた茶棚からアルミの小鍋こなべを出し、廊下に置いてある牛乳びんを取ってわかし始めた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いわゆる海苔かかであろう、それから小鍋こなべでだし汁を沸かしながら、ねぎを刻み、卵の自身をわんに溶いて、かきたまを作った。以上のことを手まめにやりながら、お梅は若者に向って云い続けた。
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うちたゞ陰氣いんきときはしまくつた夜具やぐつめたくつてた。かれやうや火鉢ひばち麁朶そだくべた。かれそば重箱ぢゆうばこ小鍋こなべとがかれてあるのをた。ふたをとつたら重箱ぢゆうばこにはめしがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
手廻り調度は、隅田川を、やがて、大船で四五日のうちに裏木戸へ積込むというので、間に合せの小鍋こなべわん家具、古脇息ふるきょうそくの類まで、当座お冬の家から持運んでいた、といいます。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひらき戸から奥へ消える時、店にいる正吉をみつけたかして娘がきぬを裂くように叫んだ。——正吉は亭主の方へ振返った、亭主はそ知らぬ顔で小鍋こなべの下をあおいでいる、正吉はすっと立って行った。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれ仕方しかたなしに小鍋こなべ火鉢ひばちけた。かれかすかにしろ水蒸氣ゆげなべからはじめたとき玉杓子たまじやくしてゝつてたが猶且やつぱりつめたかつた。かれ火鉢ひばち麁朶そだして重箱ぢゆうばこめしなべれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このあかりがさしたので、お若は半身を暗がりに、少し伸上るようにしてすかして見ると、火鉢には真鍮しんちゅう大薬鑵おおやかんかかって、も一ツ小鍋こなべをかけたまま、お杉は行儀よく坐って、艶々つやつやしく結った円髷まるまげ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)