おもて)” の例文
雨風のなおはげしくおもてをうかがうことだにならざる、静まるを待てば夜もすがらあれ通しつ。家に帰るべくもあらねば姉上は通夜したまいぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより寄席ではない見世ものだから、その曲芸は客を誘うために、あるていどまで、おもてに立見する客へも見せるから、人気はすばらしかった。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
満枝が手管てくだは、今そのおもてあらはせるやうにして内にこらへかねたるにはあらず、かくしてその人といさかふも、またかなはざる恋の内にいささか楽む道なるを思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
雨風のなほはげしくおもてをうかがふことだにならざる、静まるを待てばもすがら暴通あれとおしつ。家に帰るべくもあらねば姉上は通夜つやしたまひぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その人だかりの中には、日ごろはおもてなどへ出たこともない大問屋の内儀ないぎたちも交っている。私はよそから帰って来て、なにごとだろうかと思った。
「ああよろしいが。この首が欲いか、遣らうとも遣らうとも、ここでは可かんからおもてへ行かう。さあ一処に来た」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
盗人が一足おもてへ出たと同時に、奥蔵の二階の窓から、激しく、せわしなく「火事だ火事だ」と金盥かなだらいを叩きたてた。それに応じて店でも騒ぎだした。
表二階にて下男を対手あいてに、晩酌を傾けおりしが、得三何心無くおもてを眺め、門前に佇む泰助を、遠目に見附けていたく驚き
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞けばあの富山の父と云ふものは、内に二人おもてに三人も妾を置いてゐると云ふ話だ。財の有る者は大方そんな真似まねをして、妻はほんの床の置物にされて、はば棄てられてゐるのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
音訪おとなう者あり。聞覚えのある声はそれ、とお録内より戸を開けば、おもてよりずっと入るは下男を連れたる紳士なりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもての窓の部屋に、硝子ガラス戸の戸棚と小引出しがずっとならんでいたが、おしょさんの連合つれあい商業しょうばいは眼鏡のわくとレンズを問屋へ入れるだけで、商品がかさばらない商業だった。
ええ、と吃驚びっくり身をひるがえして、おもて遁出にげだし雲を霞、遁がすものかと銀平は門口まで追懸け出で、前途ゆくてを見渡し独言ひとりごと
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度父がおもてから帰って来て客のまたせてあるへやへゆきがけに通ると、母がすがるように言った。
われを憎むとは覚えず、内にくことをこそ好まざれ、おもてにて遊ぶ時は、折々ものくれたり。されどかの継母の与えしものに、わが好ましきはあらざりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何かのはしで讀んだ事が妙に氣がかりにもなるが、無論それはとりとめもない考への主流でなく、眼は洋中わだなかのごとき庭の青さと、銹銀色さびぎんいろの重い空の、霧つぽい濕つたおもてを見てゐたが
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
このゆうべもまた美人をその家まで送り届けし後、杉の根のおもてたたずみて、例の如く鼻につえをつきて休らいたり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すすきの穂が飛んで、室内へやのなかの老爺さんの肩に赤トンボがとまろうと、桜が散り込んで小禽ことりが障子につきあたって飛廻っても、老爺さんには東京なのか山の中なのか、室内なのかおもてなのか
予はひやりとして立停たちどまりぬ。やゝありて犬は奥より駈来かけきたり、予が立てる前を閃過せんくわして藪のおもて飛出とびいだせり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お母さんは奥深い土蔵くら前に陣どり、賢吾さんや、女中たちは、おもてへ飛出した。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「はッ、いつも朝御飯を戴いておもてへ出ますのが、今日は御玄関が開くとそのまま飛出しました。これが前兆と申すのでございましょうか、誠に争われぬもので、御愁傷様ごしゅうしょうさま。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みんなで石っころをほうりこんで逃出すんだ、そりゃね、時には、おもてでいじめたこともあるさ。だけれど、その時けて泣いた奴の方があんなに偉くなって、わしゃチンコッきりだ。わしゃかなしい。
世にれては見えたまえど、もとより深窓に生育おいたちて、乗物ならではおもてでざる止事無やんごとなき方々なれば、他人事ひとごとながら恥らいて、顔を背け、かしられ、正面より見るものなし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くて婦人が無体にも予が寝しふすまをかゝげつゝ、と身を入るゝに絶叫して、護謨球ごむだまの如く飛上とびあがり、しつおもて転出まろびいでて畢生ひつせいの力をめ、艶魔えんまを封ずるかの如く、襖をおさへて立ちけるまでは
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
幽になっておもての葉を、夜露が伝うように遠ざかる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもてより推返おしかえして、「この会のことが出ております。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)